親の介護でつまずく7つの地点|夜に呼べない市区町村が1,089

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親が入院した週に、仕事を3日休んだ。翌週は市役所に行くためにもう1日休んだ。それでもまだ、介護そのものは何も始まっていない——親の介護は、ある日いきなり始まるように見えて、実際には決まった場所でつまずきます。順番も、だいたい同じです。退院の日程が決まってから慌てて動く。認定が思ったより軽く出る。夜に人を呼べない。認知症が進んで日中の行き先が狭まる。医療的なケアが増える。介護している側が倒れる。そして退院と施設待ちの間を行き来する。

この7つを、このページでは「地点」と呼びます。時期ではなく地点と呼ぶのは、7つのうち5つは、来るかどうかではなく、来たときに越えられるかどうかが「どの市区町村に住んでいるか」でほとんど決まるからです。

全国1,889市区町村を厚生労働省の公表データで数えると、在宅介護を支える5つの受け皿のうち、1つの市区町村あたり平均2.1が存在しません。夜間に来てもらえる事業所が1つもない市区町村は1,089(57.6%)。認知症の人が通える専用のデイサービス(認知症対応型通所介護)がない市区町村は914(48.4%)。訪問看護の事業所すらない市区町村が363(19.2%)あります。なお認知症対応型デイが無いことは、「認知症の人がデイに通えない」という意味ではありません。多くは一般の通所介護に通っています。無いことの意味は、断られたときに移る先が1つ少ない、ということです。

介護のことを調べると、「こういうサービスがあります」までは、どこにでも書いてあります。知りたいのはその先のはずです。そのサービスが、親の住む市区町村に無かったときに何が起きるのか。7つの地点を順に見ながら、それぞれについて「何が起きるか」「なぜ起きるか」「地域でどう違うか」「先にできること」「次に来るもの」を並べていきます。

7つの地点と、いまの現在地

まず全体図です。順番どおりに来るとは限りませんが、家族が足を止める場所は、だいたいこの7か所のどれかです。

在宅介護でつまずく7つの地点1 退院日が決まってから動き始める どこでも同じ; 2 認定が思ったより軽く出る どこでも同じ; 3 夜に人を呼べない 地域で変わる; 4 認知症が進んで日中の行き先が狭まる 地域で変わる; 5 医療的なケアが増える 地域で変わる; 6 介護している人が倒れる 地域で変わる; 7 退院後の住まいがループする 地域で変わる在宅介護でつまずく7つの地点青はどこでも同じもの、朱は越えられるかが市区町村で変わるもの1退院日が決まってから動き始める認定に30日、住宅改修に数週間かかるどこでも同じ2認定が思ったより軽く出る使える上限額が想定と変わるどこでも同じ3夜に人を呼べない夜間の3サービスがどれもない 1,089地域で変わる4認知症が進んで日中の行き先が狭まる認知症対応型デイがない 914(一般のデイには通える)地域で変わる5医療的なケアが増える訪問看護がない 363・看多機がない 1,332地域で変わる6介護している人が倒れる短期入所生活介護がない 105市区町村(5.6%)地域で変わる7退院後の住まいがループする老健がない 516・特養が1施設だけ 397地域で変わる7つ全部が来る人はいません。問題は、来たときに越えられるかどうかだけです

青で示した2つは、住んでいる場所に関係なく誰にでも来ます。制度の手続きと、認定の結果の話だからです。朱で示した5つは違います。同じ制度の下にいても、市区町村によって使えるものが最初から存在しません。

いまどこにいるかは、直近1か月に起きたことで見当がつきます。親がまだ入院している、あるいは退院の日程を聞いたばかりなら地点1です。認定結果の通知が届いたばかりなら地点2。日中は回っているのに夜だけが自分の仕事になっているなら地点3。デイから「続けられるか相談したい」と言われたら地点4。訪問看護や医師の指示が話に出てきたら地点5。自分の休みが月に1日も取れていないなら地点6。退院と施設の話を同時にしているなら地点7です。いま来ている地点の次に何が来るかは、各章の末尾に書いてあります。

ここで大事なのは、7つ全部が来る人はいないということです。親が最後まで自分で歩けて、認知症も出ず、家族が1人ではない——そういう経過なら、地点3から地点7までは一度も来ないまま終わります。逆に、退院・夜間・認知症の3つが同時に来る家族もいます。この記事は「7つとも身構えてください」という話ではなく、自分の市区町村ではどれが来やすいかを先に知っておくための地図です。

市区町村で変わる5つのうち、いくつが欠けているか1市区町村あたり平均 2.1 5つのうち欠けている数; 5つとも欠けている 多くて363 実数はこれより少ない; 最も欠けやすい 夜間 1,089市区町村(57.6%); 最も欠けにくい 訪問看護 363市区町村(19.2%)市区町村で変わる5つのうち、いくつが欠けているか全国1,889市区町村を、5つのサービスの有無で数えた結果です1市区町村あたり平均2.15つのうち欠けている数5つとも欠けている多くて363実数はこれより少ない最も欠けやすい夜間1,089市区町村(57.6%)最も欠けにくい訪問看護363市区町村(19.2%)363は推計ではありません。訪問看護の363が最も欠けにくく、5つとも無い数はこれを超えられません

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

この4つの数字が、このページの土台です。順に説明します。

平均2.1は、5つのサービス(夜間に来られる事業所・認知症対応型デイ・訪問看護・介護老人保健施設・地域密着型特別養護老人ホーム)について、それぞれ「1つも無い市区町村の数」を足し、1,889で割った値です。1,089+914+363+516+1,003=3,885。これを1,889で割ると2.06になります。平均的な市区町村では、5つのうち2つがそもそも存在しません。ただしこれは平均です。欠けている数は、市区町村によって0から5まで幅があります。

363は、5つとも無い市区町村の上限です。5つとも無い市区町村の数は、5つのうち最も欠けにくいもの(訪問看護=363)の数を超えられません。ですから「5つとも無い市区町村」は多くても363、全体の19.2%以下です。これは推計ではなく、集合の大きさから決まる数学的な上限です。

夜間1,089と訪問看護363は、5つのうち最も欠けやすいものと最も欠けにくいものです。この2つの差が、そのまま「地域によって在宅介護の難しさが違う」という話の中身になります。

2つは誰にでも来る。5つは市区町村で決まる

誤解を招きやすいので、言葉を先に決めておきます。「市区町村で決まる」とは、その出来事が起きるかどうかではなく、起きたときに使える受け皿が地元に存在するかどうかを指します。認知症が進むことも、医療的なケアが増えることも、介護している人が倒れることも、住所では決まりません。決まるのは、そのときに手が届くかどうかです。

7つの地点を、この観点でいったん2つに割ります。

地点 何が地域で変わるか 関係する数字
1. 退院日が決まってから動き始める どこでも同じ(手続きの話) 要介護認定は申請から原則30日
2. 認定が思ったより軽く出る どこでも同じ(判定の話) 要介護1と2で上限額が約3,000単位違う
3. 夜に人を呼べない 越えられるかが市区町村で変わる 3サービスがどれもない 1,089(57.6%)
4. 認知症が進んで日中の行き先が狭まる 越えられるかが市区町村で変わる 認知症対応型デイがない 914(48.4%)
5. 医療的なケアが増える 越えられるかが市区町村で変わる 訪問看護がない 363/看多機がない 1,332
6. 介護している人が倒れる 越えられるかが市区町村で変わる 短期入所生活介護がない 105(5.6%)
7. 退院後の住まいがループする 越えられるかが市区町村で変わる 老健がない 516/特養が1施設だけ 397

介護保険は全国一律の制度です。保険料の払い方も、自己負担の割合も、サービスの名前も、どこに住んでいても同じです。保険料の計算のしかたも全国共通のルールで決まっています。それなのに、使えるサービスの中身は市区町村ごとにまったく違います。制度が用意しているのは「このサービスを提供してよい」という枠であって、事業者がその地域で開業するかどうかまでは決められないからです。

その結果がこれです。

介護の受け皿、1つもない市区町村の割合ケアマネ(居宅介護支援) 1.6%; ショートステイ(短期入所生活介護) 5.6%; 訪問介護 6.0%; 特別養護老人ホーム 6.1%; デイサービス(通所介護) 9.3%; グループホーム 10.1%; 地域密着型通所介護 16.0%; 訪問看護 19.2%; デイケア(通所リハビリ) 22.2%; 介護老人保健施設 27.3%; 小規模多機能型 32.2%; 訪問リハビリ 34.3%; 認知症対応型通所介護 48.4%; 地域密着型特養 53.1%; 介護付有料老人ホーム 54.2%; 定期巡回・随時対応型 67.8%; 介護医療院 70.3%; 看護小規模多機能型 70.5%; 軽費老人ホーム 81.6%; サービス付き高齢者向け住宅 82.3%; 夜間対応型訪問介護 94.0%介護の受け皿、1つもない市区町村の割合主要21の受け皿。「無い市区町村の割合」に1.6%から94.0%まで、59倍の差がありますケアマネ(居宅介護支援)1.6%ショートステイ(短期入所生活介護)5.6%訪問介護6.0%特別養護老人ホーム6.1%デイサービス(通所介護)9.3%グループホーム10.1%地域密着型通所介護16.0%訪問看護19.2%デイケア(通所リハビリ)22.2%介護老人保健施設27.3%小規模多機能型32.2%訪問リハビリ34.3%認知症対応型通所介護48.4%地域密着型特養53.1%介護付有料老人ホーム54.2%定期巡回・随時対応型67.8%介護医療院70.3%看護小規模多機能型70.5%軽費老人ホーム81.6%サービス付き高齢者向け住宅82.3%夜間対応型訪問介護94.0%上の6つでも1.6〜10.1%の市区町村には無い。下の8つは半数以上の市区町村にない

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

主要な21サービスについて、「その市区町村に1つもない」割合を並べたものです。いちばん上のケアマネジャー(居宅介護支援)は1.6%、いちばん下の夜間対応訪問介護は94.0%。同じ介護の受け皿でありながら、「無い市区町村の割合」に59倍の差があります。

上の6つ——ケアマネジャー、ショートステイ(短期入所生活介護)、訪問介護、特別養護老人ホーム、通所介護、グループホーム——は、無い市区町村が1.6%から10.1%の範囲にとどまります。ここまでが「たいていはある」の世界です。それでもグループホームは191市区町村に、短期入所生活介護(ショートステイ)は105市区町村に存在しません。逆に下の8つは、半分以上の市区町村に存在しません。「介護保険にはこういうサービスもあります」と紹介される選択肢の多くが、この下半分にあります。

ただし、ここには読み違えやすい点が1つあります。「デイサービス」という言葉を読者が使うとき、それは通所介護と地域密着型通所介護の両方を指しています。表では通所介護が9.3%、地域密着型通所介護が16.0%と別々に出ていますが、どちらか一方でもある市区町村を数えると、まったく無いのは32市区町村(1.7%)だけです。ここを取り違えて「デイサービスがない市区町村が9.3%」と書くと、実態より深刻に読めてしまいます。デイサービスの選び方もあわせて読んでください。

都道府県で見ると、こうなります。

県内の市区町村のうち、そのサービスが1つもない割合北海道 83/62/44/54/68; 青森県 92/62/28/40/45; 岩手県 91/36/18/18/33; 宮城県 77/54/15/13/49; 秋田県 64/48/32/24/48; 山形県 83/66/34/34/43; 福島県 78/58/48/48/75; 茨城県 75/57/9/9/54; 栃木県 68/32/16/20/0; 群馬県 83/51/26/40/51; 埼玉県 49/49/10/15/61; 千葉県 52/48/10/19/48; 東京都 33/27/10/18/67; 神奈川県 34/24/3/10/60; 新潟県 70/49/22/22/24; 富山県 53/27/7/7/40; 石川県 74/42/5/21/47; 福井県 65/47/0/24/35; 山梨県 82/59/26/33/44; 長野県 80/57/40/51/64; 岐阜県 81/48/17/29/50; 静岡県 73/44/9/24/60; 愛知県 52/28/4/9/39; 三重県 66/48/14/17/41; 滋賀県 74/26/5/21/26; 京都府 61/33/6/28/39; 大阪府 39/26/4/8/31; 兵庫県 33/31/2/8/39; 奈良県 74/59/36/44/82; 和歌山県 90/77/17/40/70; 鳥取県 90/68/26/37/68; 島根県 79/63/5/37/53; 岡山県 80/53/20/20/47; 広島県 37/40/0/7/43; 山口県 53/58/21/16/42; 徳島県 92/71/33/21/67; 香川県 65/41/6/18/65; 愛媛県 55/35/15/15/40; 高知県 91/64/46/52/82; 福岡県 44/50/4/17/53; 佐賀県 70/45/0/15/85; 長崎県 62/43/5/19/48; 熊本県 76/43/16/29/33; 大分県 61/22/17/6/39; 宮崎県 88/69/23/50/69; 鹿児島県 86/69/21/29/60; 沖縄県 92/47/19/42/69県内の市区町村のうち、そのサービスが1つもない割合色が濃いほど、県内でその受け皿を持たない市区町村が多い。夜間は代表として定期巡回を掲載定期巡回認知症デイ訪問看護老健地密特養北海道83%62%44%54%68%青森県92%62%28%40%45%岩手県91%36%18%18%33%宮城県77%54%15%13%49%秋田県64%48%32%24%48%山形県83%66%34%34%43%福島県78%58%48%48%75%茨城県75%57%9%9%54%栃木県68%32%16%20%0%群馬県83%51%26%40%51%埼玉県49%49%10%15%61%千葉県52%48%10%19%48%東京都33%27%10%18%67%神奈川県34%24%3%10%60%新潟県70%49%22%22%24%富山県53%27%7%7%40%石川県74%42%5%21%47%福井県65%47%0%24%35%山梨県82%59%26%33%44%長野県80%57%40%51%64%岐阜県81%48%17%29%50%静岡県73%44%9%24%60%愛知県52%28%4%9%39%三重県66%48%14%17%41%滋賀県74%26%5%21%26%京都府61%33%6%28%39%大阪府39%26%4%8%31%兵庫県33%31%2%8%39%奈良県74%59%36%44%82%和歌山県90%77%17%40%70%鳥取県90%68%26%37%68%島根県79%63%5%37%53%岡山県80%53%20%20%47%広島県37%40%0%7%43%山口県53%58%21%16%42%徳島県92%71%33%21%67%香川県65%41%6%18%65%愛媛県55%35%15%15%40%高知県91%64%46%52%82%福岡県44%50%4%17%53%佐賀県70%45%0%15%85%長崎県62%43%5%19%48%熊本県76%43%16%29%33%大分県61%22%17%6%39%宮崎県88%69%23%50%69%鹿児島県86%69%21%29%60%沖縄県92%47%19%42%69%佐賀県は訪問看護0.0%(全市町村にある)と地域密着型特養85.0%が同居する。県では判断できない

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

色が濃いほど、その県のなかで受け皿を持たない市区町村が多いという意味です。ただし、この図をランキングとして読まないでください。県のなかにも差があるからです。

たとえば佐賀県は、訪問看護がない市町村が0.0%——県内の全市町村に訪問看護があります。これは全国で最も良い数字のひとつです。ところが同じ佐賀県の地域密着型特養は85.0%で、こちらは全国で最も悪い。「佐賀は介護が充実している/していない」という言い方は、どちらも成立しません。北海道も同じです。道全体では老健がない市町村が54.3%と全国で最も高いのですが、188市町村の内訳は都市部と町村部でまったく違います。県の平均は、その中のどこか1つの市区町村の話をまったくしていません。

なお、この表で夜間の欄に「定期巡回」を置いているのは、3サービスが同時にゼロかどうかを都道府県単位で集計すると市区町村ごとの実態がぼやけるためです。3サービスの同時ゼロを市区町村単位で数えた正確な値は1,089です。県別の数字は代表値として読んでください。

最後に、この記事全体を通して繰り返し出てくることを先に書いておきます。「近くに呼び寄せれば解決する」は、5つのうち多くで通りません。足りなくなる受け皿の大半が、都道府県ではなく市区町村が指定する「地域密着型サービス」に集中していて、原則としてその市区町村の住民しか使えないからです。理由は第10章で図にして説明します。

地点1|退院日が決まってから動き始める

何が起きるか

入院中の親について、病院の相談員から「そろそろ退院です」と言われます。日付は2週間後。ここで初めて介護保険の申請に行き、窓口で「認定には原則30日かかります」と言われます。手すりを付けたいと業者に電話すると「工事の前に市に申請してください」と言われます。ベッドを借りようとすると、特殊寝台は原則として要介護2以上が対象なので、要介護度が決まるまで何が借りられるか確定しないと言われます。退院日から逆算して動き始めた時点で、いくつかの手続きはすでに間に合いません。

退院日が決まってから動くと、間に合わないもの要介護認定 30日; 住宅改修 14日; 福祉用具の手配 9日; 退院日の連絡 1日退院日が決まってから動くと、間に合わないもの入院した日を1日目としたときの、手続きが終わるまでの並び必要な日数それ以外の日要介護認定申請から原則30日住宅改修着工前に申請。暫定でも受ける自治体がある福祉用具の手配要介護度で借りられる品目が決まる退院日の連絡ここから動くと遅い1153045この図で唯一動かせるのは、入院中に申請してしまうことです。認定を待たずに暫定プランでも始められます

なぜ起きるか

介護保険の手続きは、待ち時間が直列に並んでいるからです。申請→認定調査→主治医意見書→審査会→認定通知で原則30日。住宅改修は着工前の申請が必要で、事前申請から工事、完了報告、支給までにさらに数週間。福祉用具も、要介護度が決まらないと何が対象になるかが確定しません。それぞれは短くても、順番に並ぶと1か月半になります。そして退院日は、病院の都合で決まります。

地域でどう違うか

この地点は制度の手続きなので、基本的にはどこでも同じです。ただし1つだけ地域差があります。ケアマネジャーの事業所(居宅介護支援事業所)が1つもない市区町村が全国に31あります。この31では、隣接する市区町村の事業所に依頼することになり、担当が決まるまでの日数がその分だけ延びます。全体の1.6%なので確率は低いのですが、該当する地域では動き出しをさらに早める必要があります。ケアマネジャーの選び方で、探し方と依頼のしかたを整理しています。

先にできること

この地点だけは、対策がはっきりしています。

やること いつ 効果
要介護認定を申請する 入院中でよい 認定の効力は申請日にさかのぼる
暫定ケアプランを作ってもらう 認定結果を待たずに 認定前でもサービスを開始できる。ただし認定が想定より軽く出ると、上限を超えた分は全額自己負担になる(地点2)
病院の医療相談室に相談する 退院の話が出た日 退院前カンファレンスを設定できる
地域包括支援センターに連絡する 申請と同時 地域の事業所の一覧をもらえる
住宅改修の見積もりを取る 退院日が決まる前 着工前申請の時間を確保できる

いちばん効くのは1行目です。要介護認定は入院中に申請でき、認定が出れば効力は申請日にさかのぼります。「退院してから」ではありません。手続きの詳細は介護保険の申請手順にまとめています。窓口が分からない場合は、地域包括支援センターが最初の相談先になります。

次に来るもの

申請すると、次は認定結果が返ってきます。ここが地点2です。

地点2|認定が思ったより軽く出る

何が起きるか

「歩けないし、トイレも間に合わないし、要介護3くらいは出るだろう」と思っていたのに、通知には要介護1と書かれています。ケアマネジャーにプランを作ってもらうと、週に使えるサービスが想定の半分ほどしかありません。そして特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上が対象です。要介護1・2では、順番待ちの列にすら並べないのが通常です。ただし、やむを得ない事情がある場合は「特例入所」として申し込む道があり、判断するのは市区町村です。

なぜ起きるか

要介護度は「病気の重さ」ではなく「介護に必要な手間の量」で決まるからです。認定調査は74項目の聞き取りと観察で行われ、そこからコンピュータによる一次判定、主治医意見書を加えた審査会の二次判定という順に進みます。身体が動く認知症の人は、この仕組みでは軽く出やすい傾向があります。本人が調査員の前でしっかりして見えることもよくあります。「できますか」と聞かれれば「できます」と答えてしまう。それが記録されます。

要介護度が1つ違うと、1か月に使える上限が変わります。

要介護度 1か月の上限(単位) できることの目安
要支援1 5,032 週1回程度のデイまたは訪問
要支援2 10,531 週2回程度
要介護1 16,765 デイ週2+訪問介護週2程度
要介護2 19,705 デイ週3+訪問介護週2〜3程度
要介護3 27,048 特養の対象になる(要介護1・2は特例入所のみ)
要介護4 30,938 毎日なんらかのサービスを入れられる
要介護5 36,217 1日複数回の訪問を組める

1単位はおおむね10円台前半(地域とサービス種別で変わります)です。要介護1と要介護3では、使える量が1.6倍違います。要介護度の目安と判定の仕組みで、各段階の状態像を詳しく整理しています。

地域でどう違うか

判定の仕組みは全国共通です。地域差が出るのはその後です。軽く出たときに「上限内でどう組み替えるか」の選択肢が、地域によって違います。小規模多機能型居宅介護は、通い・訪問・泊まりを1つの契約で月額定額で使える仕組みで、上限の使い方としては効率がよいのですが、608市区町村(32.2%)に1つもありません。この608では、軽く出た分をサービスの組み替えで吸収する手が1つ減ります。

先にできること

認定調査には家族が同席してください。要介護1・2で特養を考えている場合は、難しそうでも、まず市区町村の窓口とケアマネジャーに事情を伝えてください(特例入所の判断をするのは市区町村です)。そのうえで、「いつ・どこで・何が起きたか」を紙に書いて調査員に渡すのが最も確実です。「夜中に3回起きてトイレに付き添う」「先週、鍋を焦がした」といった具体的な出来事が、手間の量の証拠になります。結果に納得できない場合は、区分変更申請(いつでも出せます)と審査請求(通知から3か月以内)の2つの道があります。実務では区分変更申請のほうが早く、よく使われます。状態が変わったときも同じ手続きです。

次に来るもの

認定が出てプランが動き出すと、しばらくは落ち着きます。次に来るのは、多くの場合「夜」です。

地点3|夜に人を呼べない

何が起きるか

デイサービスにも通えている。訪問介護も入っている。日中は回っています。ところが夜、親がベッドから落ちます。トイレに間に合わずに汚してしまいます。呼んでも誰も来ません。介護保険のサービスは、ほとんどが日中の営業時間内のものだからです。結果として、夜だけが家族の仕事になります。そして翌朝、いつもどおり出勤します。これが何か月も続くと、在宅介護は日中の受け皿の数とは関係なく終わります。

夜に人を呼べる介護保険のサービスは、実質3つしかありません。

サービス 何ができるか ない市区町村
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 1日複数回の短時間訪問+24時間の呼び出し対応 1,280(67.8%)
夜間対応型訪問介護 夜間の定期巡回と、通報による随時訪問 1,776(94.0%)
看護小規模多機能型居宅介護 通い・訪問・泊まりに看護を加えた一体型 1,332(70.5%)

この3つが「どれか1つでもあるか」で市区町村を数えると、こうなります。

夜間に人を呼べる3サービスが、いくつ揃っているか0種類(57.6%) 1,089; 1種類(21.2%) 400; 2種類(17.0%) 321; 3種類(4.2%) 79夜間に人を呼べる3サービスが、いくつ揃っているか定期巡回・夜間対応型訪問介護・看護小規模多機能の3つで数えた(全1,889市区町村)1,0890種類(57.6%)4001種類(21.2%)3212種類(17.0%)3種類(4.2%)3つとも地域密着型サービス。隣の市にあっても、原則としてその市の住民しか使えません

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

1,089市区町村(57.6%)には、3つのどれもありません。3つとも揃っているのは79市区町村、全体の4.2%です。「24時間対応があるから在宅で大丈夫」という説明は、過半数の地域では前提から成立していません。夜間に来てもらえる市区町村の一覧で、自分の市区町村が1,089に入っているかを確認できます。

なぜ起きるか

3つとも「地域密着型サービス」だからです。地域密着型サービスは、都道府県ではなく市区町村が事業者を指定します。人口が少ない市区町村では、夜間に人を動かす事業が採算に乗りません。夜間対応型訪問介護に至っては、事業所がある市区町村が全国で113しかありません。しかもこの113は散らばっていません。21の県には1市区町村もなく、東京・神奈川・大阪・京都の4都府県だけで67を占めます。「都市部にはあるが、それ以外にはほぼ無い」サービスです。

地域でどう違うか

定期巡回・随時対応型で見ると、県による差が3倍近くあります。

都道府県 定期巡回がない市区町村
青森県 37 / 40(92.5%)
沖縄県 33 / 36(91.7%)
徳島県 22 / 24(91.7%)
高知県 30 / 33(90.9%)
岩手県 30 / 33(90.9%)
大阪府 28 / 72(38.9%)
広島県 11 / 30(36.7%)
神奈川県 20 / 58(34.5%)
東京都 20 / 60(33.3%)
兵庫県 16 / 49(32.7%)
全国 1,280 / 1,889(67.8%)

ただし東京都でも20市区町村にはありません。都市部だから安心ということではなく、同じ都道府県のなかで隣り合った市区町村の間に線が引かれています。

親が一人暮らしの場合、この地点は最初に来ます。日中の受け皿がどれだけあっても、夜に誰も来ないことが、そのまま「夜間は誰も家にいない」という意味になるからです。夜間の3サービスがどれも無い市区町村では、ケアプランに載る介護保険の給付とは別枠にある、市区町村の見守り・緊急通報の仕組みが実質的に最初の受け皿になります。自治体によって介護保険の地域支援事業だったり市区町村の独自事業だったりしますが、いずれもケアマネジャーの担当範囲の外にあることが多く、窓口も介護保険課ではなく高齢福祉課であることが少なくありません。介護保険のサービスとは分けて、「この市に見守りの仕組みはありますか」と聞いてください。

先にできること

3つとも無い地域でも、打てる手はいくつかあります。訪問介護の早朝・夜間帯(6時〜8時、18時〜22時)は割増になりますが利用でき、深夜帯(22時〜6時)に対応する事業所も地域によってはあります。まず担当のケアマネジャーに「この市区町村で夜間に動ける事業所はありますか」と直接聞いてください。夜間の介護をどう組み立てるかで、保険内・保険外を含めた組み合わせ方をまとめています。あわせて訪問介護が見つからないときの探し方も参考になります。

ケアマネジャーに聞いても夜に動ける事業所が見つからなかった、というときに残るのが、時間帯も内容も自分で決められる保険外の訪問サービスです。介護保険を使わないため、費用は全額自己負担になります。それでも、地域に対応する事業者があるかどうかだけは先に確認しておくと、必要になった日に一から探さずに済みます。

保険外の介護サービスに相談する(相談は無料)

次に来るもの

夜が家族の仕事になった状態が続くと、次は介護している側が限界を迎えます(地点6)。同時に、親の認知症が進むと日中の行き先も狭まります。それが地点4です。

地点4|認知症が進んで日中の行き先が狭まる

何が起きるか

これまで通えていたデイサービスから連絡が来ます。「他の利用者さんとトラブルが増えていて」「帰りたいと言って出て行こうとされるので、見きれません」。角の立たない言い方をされますが、要するに続けられないという話です。日中の行き先が1つ減ると、家族の在宅介護は一気に難しくなります。仕事を持っている人なら、その日から働けなくなります。

認知症が進んだとき、日中の行き先はどう変わるかそのまま続けられる 受け入れ実績のある事業所なら進行後も通える; 認知症対応型デイへ移る 少人数で職員が手厚い。914市区町村(48.4%)にない; 地域密着型通所介護へ移る 定員18人以下の小規模デイ。303市区町村(16.0%)にない; 小規模多機能型へ切り替える 通い・訪問・泊まりを1つで。608市区町村(32.2%)にない認知症が進んだとき、日中の行き先はどう変わるか一般のデイサービスから始まり、合わなくなったときに分かれます一般のデイサービスここから始まる人が多いそのまま続けられる受け入れ実績のある事業所なら進行後も通える認知症対応型デイへ移る少人数で職員が手厚い。914市区町村(48.4%)にない地域密着型通所介護へ移る定員18人以下の小規模デイ。303市区町村(16.0%)にない小規模多機能型へ切り替える通い・訪問・泊まりを1つで。608市区町村(32.2%)にない下の3つはすべて地域密着型。無い地域では、一般のデイで続けられるかどうかが分かれ目になります

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

なぜ起きるか

一般の通所介護は、利用定員に対する職員の配置が決まっています。歩き回る人、帰宅願望が強い人、他の利用者に手が出てしまう人に一対一で付くことは、その配置では難しい。だから事業所は「うちでは見られない」と判断します。事業所が冷たいわけではなく、人員の設計上そうなります。

受け皿として制度が用意しているのが、認知症対応型通所介護です。定員12人以下で、認知症の人だけを対象に、職員を手厚く配置します。ただし——

914市区町村(48.4%)に、認知症対応型通所介護が1つもありません。おおよそ2つに1つの市区町村です。認知症対応型デイがない市区町村の一覧で確認できます。

ここで必ず補足しておきたいことがあります。認知症対応型デイが無い=行き先が無い、ではありません。認知症の人の多くは一般の通所介護に通っていますし、受け入れの実績がある事業所なら進行後も通い続けられます。定員18人以下の地域密着型通所介護(小規模デイ)も、人数が少ないぶん目が届きやすく、実際の受け皿になっています。地域密着型通所介護が無いのは303市区町村(16.0%)です。地域密着型サービスの全体像もあわせて読んでください。

地域でどう違うか

県による差は3倍以上あります。

都道府県 認知症対応型デイがない市区町村
和歌山県 23 / 30(76.7%)
徳島県 17 / 24(70.8%)
宮崎県 18 / 26(69.2%)
鹿児島県 29 / 42(69.0%)
鳥取県 13 / 19(68.4%)
富山県・東京都 4 / 15・16 / 60(ともに26.7%)
大阪府 19 / 72(26.4%)
滋賀県 5 / 19(26.3%)
神奈川県 14 / 58(24.1%)
大分県 4 / 18(22.2%)
全国 914 / 1,889(48.4%)

先にできること

断られてから探すのでは遅いので、通い始めた時点で担当のケアマネジャーに1つだけ聞いておいてください。「この事業所は、認知症が進んでも続けられますか」。受け入れの実績がある事業所かどうかは、ケアマネジャーが把握しています。もし難しそうなら、進行する前に地域密着型通所介護や小規模多機能型に切り替えておくほうが、本人にとっても環境の変化が小さくて済みます。デイサービスの選び方に、見学時に確認する項目をまとめています。

次に来るもの

日中の行き先が狭まり、夜も呼べない状態が重なると、在宅の限界が見え始めます。ここで認知症の人が入れる施設を調べ始める家族が多くなります。ただし、その前にもう2つの地点があります。

地点5|医療的なケアが増える

何が起きるか

点滴が必要になる。褥瘡(床ずれ)ができて処置が要る。痰の吸引が必要になる。膀胱留置カテーテルが入る。胃ろうから栄養を入れることになる。ここから先は、介護の技術ではなく医療の手が必要です。そして家族がそれを毎日担うのは、現実的ではありません。

担うのは訪問看護です。医師の指示書に基づいて看護師が自宅を訪問し、処置と観察を行います。在宅での看取りを支えるのも、多くの場合この仕組みです。ところが——

363市区町村(19.2%)に、訪問看護の事業所が1つもありません。5つに1つです。訪問看護がない市区町村の一覧にすべて挙げています。

なぜ起きるか

訪問看護は看護師を確保できないと成立しません。そして看護師は病院に集中しています。人口が少ない地域では、24時間の連絡体制を維持できるだけの人数が揃わず、事業として続きません。看護と介護を一体で提供する看護小規模多機能型(看多機)は、この問題への制度側の答えとして作られたものですが、事業所があるのは557市区町村だけで、1,332市区町村(70.5%)に存在しません。

地域でどう違うか

この項目は、県による差が最も極端に出ます。

都道府県 訪問看護がない市区町村
福島県 28 / 59(47.5%)
高知県 15 / 33(45.5%)
北海道 82 / 188(43.6%)
長野県 31 / 77(40.3%)
奈良県 14 / 39(35.9%)
神奈川県 2 / 58(3.4%)
兵庫県 1 / 49(2.0%)
福井県 0 / 17(0.0%)
広島県 0 / 30(0.0%)
佐賀県 0 / 20(0.0%)
全国 363 / 1,889(19.2%)

福井県・広島県・佐賀県は、県内のすべての市町村に訪問看護があります。福島県は市町村の半分近くに無い。同じ制度の下で、47.5%と0.0%が同時に存在しています。

リハビリについても同じ構造があります。デイケア(通所リハビリ)は419市区町村、訪問リハビリは648市区町村に存在しません。通所リハビリ・訪問リハビリ・介護老人保健施設のどれもない市区町村は359で、この359では「リハビリのための場所」が地元に1つもないことになります。ただしこれは「リハビリが受けられない」という意味ではありません。訪問看護ステーションから理学療法士などが訪問する形のリハビリは、訪問リハビリの事業所が無くても使えます。訪問看護があるかどうかを先に確認してください。デイケア・訪問リハ・老健がない市区町村の一覧と、退院後のリハビリをどこで受けるかを参照してください。

先にできること

まず、地域に事業所が無くても、隣接する市区町村の事業所が訪問範囲に入れていることがあります。訪問看護は市区町村が指定するサービスではないため、住所による制限がありません(第10章で説明します)。ケアマネジャーか主治医に「ここまで来てくれる訪問看護はありますか」と、範囲を切って聞いてください。無いものを埋める手は、まずこれです。

そのうえで、支払い方の話があります。末期の悪性腫瘍や厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合、あるいは主治医が特別訪問看護指示書を出した場合は、医療保険の訪問看護になり、要介護度の区分支給限度額を消費しません。ただし特別訪問看護指示書は原則として月1回・14日間が限度で(気管カニューレを使っている場合などは月2回)、恒久的な代わりにはなりません。該当しそうなときは、主治医に「医療保険の訪問看護は使えますか」と聞いてください。

次に来るもの

医療的なケアが増えると、家族の負担は時間ではなく緊張で増えます。ここから地点6までは、たいてい早いです。

地点6|介護している人が倒れる

何が起きるか

介護している家族が、腰を痛める。インフルエンザにかかる。あるいは自分の手術で入院することになる。その瞬間、家に介護できる人が誰もいなくなります。親を1日でも1人にできない状態で、これは緊急事態です。多くの場合、この地点で在宅介護が終わります。

制度側の受け皿がショートステイ(短期入所生活介護)です。数日から数週間、施設に泊まってもらえます。定期的に使えば介護する側が休めますし、緊急時の避難先にもなります。

短期入所生活介護が1つもない市区町村は105(5.6%)です。主要21の受け皿のなかでは行き渡っているほうですが、「全国どこにでもある」とは書けません。105市区町村では、この受け皿が最初から存在しません。

なお「ショートステイ」と呼ばれるものには、特養などが行う短期入所生活介護と、老健・介護医療院が行う短期入所療養介護の2つがあります。ここで挙げた105は短期入所生活介護がない市区町村の数で、療養介護のショートまで含めて数えると、これより少なくなります。地元に無いと分かったら、老健のショートが使えるかどうかをケアマネジャーに確認してください。

親が一人暮らしで、通える距離に家族がいない場合は、この地点がすでに来ている状態です。倒れる人が最初からいないのではなく、倒れたときに気づく人がいません。

なぜ起きるか

ショートステイは特別養護老人ホームに併設されている形が多く、特養がある地域には概ねあります。逆に言えば、特養が無い地域ではショートステイも無くなりやすいという連動があります。そしてもう1つ、あっても使えないという問題があります。人気のある施設は数か月先まで予約が埋まっていて、「明日から」という緊急の使い方はできません。

地域でどう違うか

都道府県 短期入所生活介護がない市区町村
高知県 7 / 33(21.2%)
山梨県 5 / 27(18.5%)
長野県 14 / 77(18.2%)
福島県 9 / 59(15.3%)
静岡県 6 / 45(13.3%)
ゼロの県(宮崎・福岡・兵庫・大阪・埼玉ほか18県) 0(0.0%)
全国 105 / 1,889(5.6%)

ゼロの県は18あります。5県だけを挙げると順位のように見えてしまうので、県名は一覧に譲りました。この表は県のランキングではなく、同じ県のなかでも市区町村によって違うことを示すためのものです。

先にできること

倒れてからでは間に合いません。ショートステイは、限界が来たときに使うものではなく、限界を来させないために、元気なうちから月1回入れておくものです。理由は3つあります。一度でも利用した実績があると緊急時に受け入れてもらいやすいこと、本人がその施設に慣れること、そして家族が「預けてよい」と思えるようになることです。使える日数の考え方はショートステイは何日まで使えるかに整理しました。

ショートステイの連続利用は原則30日までです。31日目からは介護保険が効かず、全額自己負担になります。長めに預けるつもりで組むときは、この区切りをケアマネジャーと先に確認してください。

仕事との両立で行き詰まっている場合は、介護休業と介護休暇という2つの制度があります。介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得でき、雇用保険から介護休業給付金(賃金のおおむね67%)が出ます。介護休暇は年5日(対象家族が2人以上なら10日)で、時間単位でも取れます。介護休業93日の使い方で、申請の実務をまとめています。

もう1つ、休みを取っても減らない部分があります。訪問介護に頼めることには決められた範囲があり、草むしりや大掃除、家族の分の食事づくりは対象外です。何が頼めて何が頼めないのかは、介護保険で頼めないことに、保険外での埋め方と一緒に整理しました。

次に来るもの

この地点を越えられなかったとき、多くの家族は入院か施設を検討します。そして、そこから最後の地点が始まります。

地点7|退院後の住まいがループする

何が起きるか

親が肺炎で入院します。治療は終わりましたが、体力が落ちて自宅に戻れる状態ではありません。病院からは「そろそろ」と言われます。特別養護老人ホームに申し込みますが、順番待ちです。とりあえず介護老人保健施設(老健)に入ります。3か月ほどで「そろそろ在宅復帰を」と言われます。自宅に戻りますが、夜も日中も受け皿がないので、数か月でまた入院します。この4つの間を、行き先が決まらないまま回り続けます。

退院後の住まいが決まらないと、この4つを回り続ける入院 治療が終われば退院を求められる。病院は住む場所ではない; 老健に入る 在宅復帰が目的の施設。おおむね3か月ごとに継続を検討する。516市区町村にない; 特養を待つ 原則要介護3以上。91市区町村にゼロ、397市区町村は1施設だけ; 在宅に戻る 夜間・医療・認知症の受け皿がないと、また入院に戻りやすい退院後の住まいが決まらないと、この4つを回り続けるどこで止まるかは、その市区町村に何があるかで決まります1入院治療が終われば退院を求められる。病院は住む場所ではない2老健に入る在宅復帰が目的の施設。おおむね3か月ごとに継続を検討する。516市区町村にない3特養を待つ原則要介護3以上。91市区町村にゼロ、397市区町村は1施設だけ4在宅に戻る夜間・医療・認知症の受け皿がないと、また入院に戻りやすいくり返すこのループを止めるのは、退院前に次の行き先を決めておくことだけです

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

なぜ起きるか

それぞれの場所が「そこに長くいる」ことを想定していないからです。病院は治療が終われば退院を求めます。老健は在宅復帰を目的とした施設で、おおむね3か月ごとに入所を続けるかどうかを見直します(老健は3か月で出されるのかで判定の仕組みを詳しく説明しています)。特養は住む場所ですが、原則として要介護3以上で、待機期間があります。そして自宅は、受け皿が無ければ長くは持ちません。4つとも「次の場所が決まっている」ことを前提に設計されていて、決まらないと循環します。

地域でどう違うか

ループのどこで詰まるかが、市区町村ごとに違います。

受け皿 1つもない市区町村 詰まったときに起きること
介護老人保健施設(老健) 516(27.3%) 遠方の老健を探すことになり、面会と手続きの負担が増える
特別養護老人ホーム(広域型) 116(6.1%) 遠方の施設に申し込むことになる
地域密着型特別養護老人ホーム 1,003(53.1%) 小規模で地元向けの選択肢が消える
特養が広域型・地域密着型ともにない 91(4.8%) 地元に特養という選択肢が存在しない
特養が1施設だけ(広域型・地域密着型の合計) 397 そこが空かなければ待つしかない

91市区町村には特別養護老人ホームが1つもなく、397市区町村には1施設しかありません。合わせて488、全体の4分の1です。「特養は何年待ち」という全国平均の話は、この488では役に立ちません。0か1しかない以上、平均ではなく、その1施設が空くかどうかだけが答えになるからです。特養がない市区町村の一覧と、特養の待機期間は本当に長いのかを参照してください。

0か1しかない市区町村で聞くべきことは、「何年待ちですか」ではありません。聞くのは3つです。いま申込者が何人いるか、昨年度は何人が入所したか、そして「うちの親の状況だと、優先順位はどのあたりになりそうか」。3つめが最も重要です。特養の順番は申し込んだ順ではなく、要介護度・独居かどうか・介護者の状況を点数にした入所指針の順で決まります。あとから申し込んだ人が先に入ることは普通に起きます。市区町村が待機者数をまとめている場合もあるので介護保険課にも聞いてください。ただし自治体の集計は複数施設への重複申込を含むことが多く、実人数より多く出ます。

老健の地域差はさらに大きく、県で10倍近い開きがあります。

都道府県 老健がない市区町村
北海道 102 / 188(54.3%)
高知県 17 / 33(51.5%)
長野県 39 / 77(50.6%)
宮崎県 13 / 26(50.0%)
福島県 28 / 59(47.5%)
大阪府 6 / 72(8.3%)
兵庫県 4 / 49(8.2%)
広島県 2 / 30(6.7%)
富山県 1 / 15(6.7%)
大分県 1 / 18(5.6%)
全国 516 / 1,889(27.3%)

先にできること

ループを止める方法は1つしかありません。いまいる場所を出る前に、次の行き先を決めておくことです。老健に入った日から特養の申し込みを始める。自宅に戻るなら、戻る前に夜間と日中の受け皿を組んでおく。「戻ってから考える」と、必ずもう1周します。

特養だけを待つ必要もありません。介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームは、それぞれ条件と費用が違います。老人ホームの種類と費用の一覧で全体像を、見学で聞くべき12の質問で実際の確認項目を整理しています。

ループを止めるのは「次を先に決める」ことだけですが、その次を決めるのに一番時間を取られるのが、条件に合う候補を集める段階です。地域・予算・介護度・医療面の条件を伝えて資料をまとめて取り寄せると、比較の土台が1回で揃います。老健に入った日、あるいは待機の順番を待っている間に始めておけば、退所日が決まってから探すことにはなりません。

施設の候補を、地域と予算から絞り込む

次に来るもの

ここまで7つの地点を見てきました。地点3から地点7までの5つに共通して出てくるのが、「隣の市にはあるのに使えない」という話です。次の章で、その理由を説明します。

「呼び寄せれば解決する」が通らない理由

地域に受け皿が無いと分かったとき、多くの家族が最初に考えるのが「自分の家の近くに呼び寄せればいい」です。ところが、この判断は思ったほど効きません。理由は制度の構造にあります。

隣の市の事業所を使えるか、使えないかの境目都道府県が指定するもの 訪問介護・デイサービス・訪問看護・ショートステイ・特養・老健など; =住所の制限なし 隣の市でも県外でも契約できる。地元になくても探す範囲を広げられる; 市区町村が指定するもの 地域密着型サービス9種類。定期巡回・夜間対応型・認知症対応型デイなど; =原則その市区町村の住民のみ 隣の市にあっても原則は使えない(市区町村間の同意があれば例外的に使える)隣の市の事業所を使えるか、使えないかの境目介護保険のサービスは指定する行政で2つに分かれます。ここが「呼び寄せれば解決する」が通らない理由介護保険のサービス指定するのは誰か都道府県が指定するもの訪問介護・デイサービス・訪問看護・ショートステイ・特養・老健など=住所の制限なし隣の市でも県外でも契約できる。地元になくても探す範囲を広げられる市区町村が指定するもの地域密着型サービス9種類。定期巡回・夜間対応型・認知症対応型デイなど=原則その市区町村の住民のみ隣の市にあっても原則は使えない(市区町村間の同意があれば例外的に使える)「無い」で困る受け皿ほど市区町村が指定する側にあり、範囲を広げるだけでは原則として解決しません

介護保険のサービスは、指定するのが都道府県か市区町村かで、2つに分かれます。

都道府県が指定するもの——訪問介護、通所介護、訪問看護、ショートステイ、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など——には、住所による利用制限がありません。隣の市の事業所とでも、県外の施設とでも契約できます。つまり、これらが地元に無くても、探す範囲を広げれば解決する可能性があります。

市区町村が指定するのが「地域密着型サービス」で、全部で9種類あります。こちらは原則として、その市区町村に住民票がある人しか使えません。隣の市に事業所があっても、原則は使えません。

ただし例外があります。市区町村どうしが同意していれば、他の市区町村の住民でも利用できます。生活圏が市境をまたぐ地域では、実際に協定を結んでいることがあります。「隣の市の事業所を、この市の住民が使えますか」は、地域包括支援センターか市区町村の介護保険課に一度聞く価値のある質問です。無いと分かったときに、最初に試す手がこれです。

地域密着型サービス(9種類) 1つもない市区町村
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 1,280(67.8%)
夜間対応型訪問介護 1,776(94.0%)
地域密着型通所介護 303(16.0%)
認知症対応型通所介護 914(48.4%)
小規模多機能型居宅介護 608(32.2%)
看護小規模多機能型居宅介護 1,332(70.5%)
認知症対応型共同生活介護(グループホーム) 191(10.1%)
地域密着型介護老人福祉施設(小規模特養) 1,003(53.1%)
地域密着型特定施設入居者生活介護

ここに、この記事でいちばん伝えたいことがあります。「無い」で本当に困る受け皿ほど、市区町村が指定する側に集中しています。夜間に人を呼ぶ手段も、認知症の人が日中通う場所も、看護と介護を一体で受ける仕組みも、全部こちら側です。そして、こちら側は範囲を広げるだけでは原則として解決しません。

もちろん、実際に転居して住民票を移せば、転居先の地域密着型サービスは使えるようになります。要介護認定も、受給資格証明書を持って14日以内に手続きすれば引き継げます。ただし、そのときに起きることを見ておいてください。

呼び寄せで起きること 内容
使えるようになるもの 転居先の市区町村の地域密着型サービス9種類
切れるもの かかりつけ医、通院の履歴、近所の関係、生活の記憶
認知症への影響 環境の変化は進行を早める要因になりうる
そもそも不要な場合 広域型の特養・老健・有料老人ホームは住所の制限がなく、遠方からでも申し込める
先に確かめること 転居先の市区町村に、必要な地域密着型サービスが実在するか。夜間の3サービスは1,089市区町村(57.6%)に1つもない

整理すると、呼び寄せの効き目は2つに分かれます。1つは「介護する人が近くに増える」効果で、これは制度と関係なく効きます。もう1つは「転居先の地域密着型サービスが使えるようになる」効果ですが、これは転居先にそのサービスが実在する場合しか効きません。移った先が同じ状態なら、失うものだけが残ります。だから先に確かめるのは後者です。

そして、施設を探しているのであれば呼び寄せは要りません。広域型の特養も老健も有料老人ホームも都道府県が指定する側なので、いまの住所のまま遠方の施設に申し込めます。

なお、特養・老健・介護医療院・有料老人ホーム・軽費老人ホームなどに入って住所を移した場合には、住所地特例という仕組みがあり、保険を運営する市区町村は元のままになります。2015年の改正で、住所地特例の対象者は施設がある市区町村の地域密着型サービスも使えるようになりました。ただしグループホームと地域密着型特養は住所地特例の対象外で、入る前にその市区町村へ住民票を移す必要があります。また、これらはいずれも施設に入る場合の話で、子の家に同居する場合には当てはまりません。地域密着型サービスの中身は地域密着型サービスとは何かで1つずつ説明しています。

呼び寄せないと決めた場合も、決め手は同じです。自分の家に何があるかではなく、親が住んでいる市区町村に何があるかだけです。離れて暮らしていると、この部分は帰省しても見えません。人づてに「あの辺は施設が多い」と聞いても、それは隣の市の話であることがよくあります。次の章の5項目は、遠方に住んでいる家族ほど、先に数字で見ておく意味があります。

自分の市区町村で確かめる5項目

ここまでの話を、自分の親が住んでいる市区町村に当てはめます。確かめるのは5つだけです。

自分の市区町村で確かめる5項目夜間に来てもらえる事業所があるか 定期巡回・夜間対応型・看護小規模多機能のどれか(無い市区町村 1,089); 認知症の人が日中通える先があるか 認知症対応型デイまたは地域密着型通所介護(無い市区町村 914/303); 訪問看護の事業所があるか 医療的なケアが増えたときの前提になる(無い市区町村 363); 介護老人保健施設があるか 退院してすぐ自宅に戻れないときの受け皿(無い市区町村 516); 地元に特別養護老人ホームがあるか 広域型と地域密着型のどちらもない市区町村が91、1施設だけが397自分の市区町村で確かめる5項目在宅を続けるための3つと、その次を考えるための2つに分かれます夜間に来てもらえる事業所があるか定期巡回・夜間対応型・看護小規模多機能のどれか(無い市区町村 1,089)認知症の人が日中通える先があるか認知症対応型デイまたは地域密着型通所介護(無い市区町村 914/303)訪問看護の事業所があるか医療的なケアが増えたときの前提になる(無い市区町村 363)介護老人保健施設があるか退院してすぐ自宅に戻れないときの受け皿(無い市区町村 516)地元に特別養護老人ホームがあるか広域型と地域密着型のどちらもない市区町村が91、1施設だけが397上の3つが在宅を続けるための条件、下の2つが在宅の次を考えるための条件です

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村。同一事業所の重複を整理して集計)

上の3つが「在宅を続けられるかどうか」の条件、下の2つが「在宅の次を考えるとき」の条件です。3つとも欠けているなら、在宅を長く続ける条件は、家族の体力以外にほとんど残っていません。その場合は早い段階から施設も並行して検討したほうが、結果的に本人にとって穏やかになります。

調べ方は3通りあります。上から順に、かかる時間が長くなり、分かることが具体的になります。

方法 できること かかる時間
マモリアの市区町村検索 5項目を含む21サービスの事業所数を一度に確認 1分
地域包括支援センターに電話 事業所の一覧をもらえる。空き状況も聞ける 15分
市区町村の介護保険課 地域密着型サービスの指定事業者一覧を確認できる 30分

最初の1つは、このサイトの市区町村別データで全国1,889市区町村ぶんを公開しています。市区町村のページには、そこに無いサービスについて、同じ県内(政令市の区なら同じ市内の他の区)でそのサービスを持つ地域を、事業所数の多い順に4件まで載せています。ただし地域密着型サービスは、隣にあっても原則としては使えません(第10章)。使えるかどうかまで含めて、次は地域包括支援センターに「隣の市も含めて、この条件で使えるところはありますか」と聞いてください。「無い」ことが分かっている状態で相談すると、話が具体的なところから始まります。

もう1つ、先に見ておいたほうがよいものがあります。7つの地点で必要になる用事は、ほとんどが平日の日中にしかできません。働きながら介護をする人がつまずくのは、サービスが無いことより先に、動ける時間が無いことです。どれが平日でなければ無理で、どれが電話や郵送で済むかを、先に切り分けておいてください。

用事 平日の日中でないとできないか 減らし方
要介護認定の申請 窓口は平日。郵送で受け付ける市区町村もある 地域包括支援センターや居宅介護支援事業者に申請を代行してもらえる(法律で認められた代行)
認定調査の同席 平日。日程は相談できる 調整を頼み、当日は出来事を書いた紙で補う
退院前カンファレンス 平日。病院の都合で決まる 日程を早めに押さえる。出られないときは書面で意向を出す
ケアマネジャーとの契約・担当者会議 相談できる。夕方や土曜に対応する事業所もある 最初の面談で平日夜と土曜が可能か確認する
施設の見学 有料老人ホーム・サ高住は土日も受ける。特養・老健は平日のみのことが多い 資料で候補を絞り、平日に行く施設と土日に行く施設を分けて回る

会社を休む必要がある場合は、介護休業と介護休暇が使えます。日数と申請の実務は介護休業93日の使い方にまとめました。

5項目と平日の切り分けが済んだら、次に効いてくるのはお金です。地点を1つ通過するたびに、どこで費用の段が上がるのかを見ておきます。

お金はどの地点で段が上がるか

介護のお金は、月々の負担がじわじわ増えるというより、地点を通過するたびに段が上がります。どこで何が増えるかを先に知っておくと、家計の見通しが立てやすくなります。

地点 お金の動き 使える軽減
1. 退院日が決まる 住宅改修(上限20万円の1〜3割負担)、福祉用具のレンタル 住宅改修費支給、特定福祉用具購入費
2. 認定が出る 上限(区分支給限度基準額)を超えた分は全額自己負担 高額介護サービス費
3. 夜間の受け皿を足す 定期巡回は月額包括。保険外の訪問は全額自己負担 高額介護サービス費
4. 日中の行き先を変える 認知症対応型デイは一般の通所介護より単価が高い 高額介護サービス費
5. 医療的ケアが増える 医療保険と介護保険の両方に自己負担が発生 高額医療・高額介護合算療養費
6. ショートステイを使う 食費と滞在費は保険給付の対象外 負担限度額認定
7. 施設に移る 月額費用に加えて入居一時金が必要な場合がある 負担限度額認定(施設サービスのみ)

覚えておく制度は3つです。高額介護サービス費は、1か月の自己負担が所得に応じた上限を超えたときに、超えた分が払い戻される仕組みです。申請は最初の1回だけで、以後は自動で振り込まれます。負担限度額認定は、特別養護老人ホーム・老健・介護医療院・ショートステイの食費と居住費を軽減するもので、所得だけでなく預貯金の額も要件になります。高額医療・高額介護合算療養費は、1年間の医療費と介護費の合計に上限を設ける制度です。3つとも、申請しなければ受けられません。

負担限度額認定の金額は2026年8月1日から見直されています。額は市区町村の窓口か、最新の通知で確認してください。このページでは金額を書きません。改定直後の数字を古いまま載せると、判断を誤らせるからです。

費用の相場を先に知りたい場合は、介護にかかるお金の全体像を読んでください。

施設の費用については年金だけで入れる施設はあるか入居一時金の仕組みにまとめています。

在宅を続けるか、移るか

7つの地点のうち、地点3・4・5・6のどれかで行き詰まったとき、家族は必ず同じ問いに突き当たります。まだ家で見られるのか、それとも施設か。

この判断を「気持ち」で決めようとすると、答えが出ません。決められるのは、条件のほうです。

確かめること 在宅を続けられる側 移ることを考える側
夜間の受け皿 3サービスのどれかがある、または保険外で埋められる どれも無く、夜は家族が全部やっている
日中の行き先 通える事業所があり、進行しても続けられる 断られた、または通える先が無い
医療的ケア 訪問看護が入っている 処置が必要なのに看護が入れない
介護する人 2人以上いる、または仕事と両立できている 1人で、休みが取れていない
本人の状態 夜眠れている、転倒が月に数回以内 昼夜が逆転している、転倒が増えた

右側が3つ以上当てはまるなら、在宅の継続はすでに家族の体力だけで支えられている状態です。そこから先は、続けるかどうかではなく、いつ限界が来るかの問題になります。在宅介護の限界はどこかで、判断のタイミングをより細かく整理しています。

施設を検討し始めたとき、最初の作業は「候補を集めること」です。ここに最も時間がかかります。無料の紹介サービスを使う手もありますが、紹介サービスが扱うのは民間の施設が中心で、特別養護老人ホームは対象外です。特養は市区町村の窓口か担当のケアマネジャー経由で申し込みます。この使い分けは紹介サービスはなぜ無料なのかに書きました。

在宅を続けるか移るかは、条件に合う施設が実際にいくらで、どのくらいの距離にあるのかを知らないままでは決められません。資料を取り寄せても申し込む義務はありません。比べたうえで「まだ在宅で行ける」と結論を出すために使ってもかまいません。決めるための材料であって、決断ではありません。

施設の候補を、地域と予算から絞り込む

なお、本人が施設を嫌がる、きょうだいが動かないといった問題は、条件の話とは別に必ず出てきます。これは地域のデータでは答えが出ない部分なので、このページでは扱っていません。ただ、条件のほうを先に数字で固めておくと、その話し合いは「気持ちの押し付け合い」から「何が無いか」の共有に変わります。

まとめ

7つの地点を、先にやっておくことと一緒に並べておきます。この表だけを印刷して、地域包括支援センターに持って行っても使えます。

地点 何が地域で変わるか 先にやっておくこと
1. 退院日が決まってから動く どこでも同じ 入院中に要介護認定を申請する
2. 認定が軽く出る どこでも同じ 調査に同席し、出来事をメモで渡す
3. 夜に人を呼べない 受け皿が地域で変わる 3サービスの有無を先に確認する
4. 日中の行き先が狭まる 受け皿が地域で変わる 「進行しても続けられるか」を通い始めに聞く
5. 医療的ケアが増える 受け皿が地域で変わる 訪問看護の有無と、医療保険の道を確認する
6. 介護する人が倒れる 受け皿が地域で変わる 元気なうちにショートステイを1回使う
7. 住まいがループする 受け皿が地域で変わる いまいる場所を出る前に次を決める

最後にもう一度だけ、この記事の骨になっている数字を置いておきます。在宅介護を支える5つの受け皿のうち、1つの市区町村あたり平均2.1が存在しません。5つとも無い市区町村は、多くても363(19.2%)です。そして、足りなくなる受け皿の大半は市区町村が指定する地域密着型サービスで、隣の市にあっても原則として使えません。

だからこの記事の結論は、「備えましょう」ではありません。自分の親が住んでいる市区町村に、何が無いのかを先に見ておいてください。無いと分かっているものは、代わりを探す時間が作れます。行き止まりになるのは、無いと知らないまま必要になったときだけです。

まずは市区町村を検索して5項目を確認するところから始めてください。ここまでは今日のうちに終わります。そのうえで地域包括支援センターに電話をすると、話は「どうしたらいいでしょうか」ではなく、「うちの市にはこれが無いので、代わりはありますか」から始まります。

よくある質問

7つの地点は、必ずこの順番で来ますか。

いいえ。順番はよく入れ替わりますし、7つ全部が来る人はいません。最も多いのは、地点1(退院)と地点2(認定)だけで落ち着き、しばらく何も起きないパターンです。ただし地点3から地点7は、来たときに準備がないと選択肢がほとんど残りません。この記事は「7つに身構えてください」という趣旨ではなく、自分の市区町村ではどれが来やすいかを先に知っておくための地図として使ってください。

自分の市区町村に何が無いのか、どうやって調べればよいですか。

3通りあります。1つめはマモリア(mamoria.jp)の市区町村別データで、全国1,889市区町村について主要21の受け皿の事業所数を公開しています。1分で確認できます。2つめは地域包括支援センターへの電話で、事業所の一覧と空き状況まで聞けます。3つめは市区町村の介護保険課で、地域密着型サービスの指定事業者一覧を確認できます。まず数字を見て、無いことが分かってから地域包括支援センターに相談すると、話が具体的なところから始まります。

夜間の3サービスが1つも無い地域では、在宅介護は無理でしょうか。

無理ではありませんが、夜の分を家族か保険外のサービスで埋める前提になります。まず訪問介護の早朝・夜間帯(6時〜8時、18時〜22時)は割増になりますが利用でき、深夜帯に対応する事業所も地域によってはあります。担当のケアマネジャーに「この市区町村で夜間に動ける事業所はありますか」と直接聞いてください。それでも埋まらない場合は、時間帯と内容を自由に決められる保険外の訪問サービスが選択肢になります。全国1,089市区町村がこの状態なので、特殊な事情ではありません。

認知症対応型デイが無い市区町村では、認知症の人はデイに通えないのですか。

通えます。認知症の人の多くは一般の通所介護に通っていますし、受け入れの実績がある事業所なら進行後も続けられます。定員18人以下の地域密着型通所介護(小規模デイ)も、人数が少ないぶん目が届きやすく実際の受け皿になっています。認知症対応型デイが無い914市区町村で問題になるのは、断られたときに移る先が1つ少ないことです。だからこそ、通い始めた時点で「進行しても続けられますか」と確認しておく価値があります。

隣の市の事業所は使えないのですか。

サービスの種類によります。訪問介護、通所介護、訪問看護、ショートステイ、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などは都道府県が指定するサービスで、住所による制限がありません。隣の市でも県外でも契約できます。一方、地域密着型サービス9種類は市区町村が指定するもので、原則としてその市区町村に住民票がある人しか使えません。夜間対応、認知症対応型デイ、小規模多機能型、看護小規模多機能型はすべてこちら側なので、原則として隣の市にあっても使えません。ただし市区町村どうしが同意していれば使える例外があるので、地域包括支援センターか市区町村の介護保険課に一度確認してください。

訪問看護が無い市区町村では、自宅で看取ることはできませんか。

難しくなりますが、道はあります。訪問看護は都道府県が指定するサービスなので住所の制限がなく、隣接する市区町村の事業所が訪問範囲に入れていることがあります。まずケアマネジャーか主治医に、訪問可能な範囲の事業所を確認してください。また、末期の悪性腫瘍や厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合、あるいは主治医が特別訪問看護指示書を出した場合は医療保険の訪問看護になり(特別訪問看護指示書は原則として月1回・14日間が限度です)、要介護度の上限額を消費しません。事業所がゼロの市区町村は全国に363あります。

要介護認定が思ったより軽く出ました。やり直せますか。

2つの方法があります。区分変更申請は、状態が変わったときにいつでも出せるもので、実務ではこちらがよく使われます。審査請求(不服申し立て)は認定結果を知った日の翌日から3か月以内に都道府県の介護保険審査会へ行いますが、結論が出るまで時間がかかります。急ぐなら区分変更申請です。どちらの場合も、認定調査に家族が同席し、「いつ・どこで・何が起きたか」を書いた紙を渡すことが最も効きます。要介護度は病気の重さではなく介護の手間の量で決まるためです。

親を自分の家の近くに呼び寄せたほうがよいですか。

何が足りないかによります。呼び寄せの効き目は2つに分かれます。1つは「介護する人が近くに増える」効果で、これは制度と関係なく効きます。もう1つは「転居先の地域密着型サービスが使えるようになる」効果ですが、これは転居先にそのサービスが実在する場合しか効きません。夜間の3サービスは1,089市区町村(57.6%)に1つもないので、移った先が同じ状態なら失うものだけが残ります。転居先に何があるかを先に確認してください。施設を探しているのであれば呼び寄せは不要です。広域型の特別養護老人ホーム、老健、有料老人ホームは住所の制限がなく、いまの住所のまま遠方の施設に申し込めます。ただし呼び寄せれば、かかりつけ医も近所の関係も切れます。環境の変化は認知症の進行を早める要因にもなりうるので、「呼び寄せないと使えないもの」が本当に必要かを先に切り分けてください。

ショートステイは緊急でも使えますか。

空きがあれば使えますが、人気のある施設は数か月先まで予約が埋まっていることが多く、「明日から」は難しいのが実情です。だから元気なうちに月1回でも使っておくことをおすすめします。一度でも利用した実績があると緊急時に受け入れてもらいやすく、本人も施設に慣れます。なお、短期入所生活介護が1つもない市区町村が全国に105あります(老健などが行う短期入所療養介護は別に数えます)。原則として連続利用は30日までで、31日目からは全額自己負担になります。

特養が1施設しかない市区町村では、待機はどうなりますか。

比べる相手がいないので、「何年待ち」という一般論が成立しません。その1施設が空くかどうかがすべてです。全国で特養が1施設だけの市区町村は397、そもそも1つもない市区町村は91あり、合わせて488、全体の4分の1にあたります。この場合は、隣接する市区町村の特養にも同時に申し込んでください。広域型の特養は都道府県が指定する施設で、住所そのものによる申込制限はありません。ただし2つ注意があります。同じ「特養」でも定員29人以下の地域密着型特養はその市区町村の住民しか入れないこと、そして入所の優先順位を決める指針で施設のある市区町村の住民が加点される運用が多いことです。申し込めるのと、順番が早いのは別です。申し込み自体は複数施設に同時に出せます。

在宅を続けるか施設に移るかは、何で決めればよいですか。

在宅を続けるかどうかは、気持ちではなく条件で決まります。夜間の受け皿がなく、日中の行き先も断られ、介護する人が1人で休めていない——この状態で在宅を続けると、多くの場合は介護している側が先に倒れます。そのときは親も家に居られなくなり、選ぶ余裕のないまま行き先が決まります。条件が揃わないうちに移る判断をすることは、本人が施設を選べるうちに選ぶということでもあります。判断材料は5つです。夜間の受け皿、日中の行き先、医療的ケア、介護する人の数、本人の状態。この5つのうち3つ以上が欠けているなら、在宅は家族の体力だけで支えられている状態です。

隣の市の地域密着型サービスを使えるように、交渉することはできますか。

制度上の道はあります。地域密着型サービスは原則としてその市区町村の住民しか使えませんが、市区町村どうしが同意すれば、他の市区町村の住民でも利用できます。生活圏が市境をまたぐ地域では、実際に協定を結んでいることがあります。個人が直接交渉するというより、まず「うちの市とその市の間に同意はありますか」と地域包括支援センターか市区町村の介護保険課に確認するのが実務的です。同意が無い場合でも、担当のケアマネジャーから市区町村へ相談してもらう余地はあります。地元に受け皿が無いと分かったとき、転居を考える前に試す価値のある手です。

データは2026年6月末時点とのことですが、いまは事業所が増えているのではありませんか。

増えている地域も、減っている地域もあります。厚生労働省の介護サービス情報公表システムは随時更新されているので、最新の状況はそちらか市区町村の窓口で確認できます。ただし、この記事で扱っている「1つもない市区町村」という状態は、1年や2年では大きく動きません。夜間対応型訪問介護のように事業所がある市区町村が全国で113しかないサービスは、1か所増えても全体の姿は変わらないからです。数字の細部より、自分の市区町村がゼロの側にいるかどうかを確認してください。そこが変わったときは、地域包括支援センターがいちばん早く把握しています。

親の住民票と実際に住んでいる場所が違います。どちらの市区町村のサービスを使えますか。

介護保険の保険者は原則として住民票のある市区町村で、地域密着型サービスもそこの住民として扱われます。子の家に長く住んでいるのに住民票が実家のままだと、実際に暮らしている市区町村の地域密着型サービスを使えないという事態が起きます。長く同居するのであれば住民票を移すのが基本です。ただし施設に入るために住所を移した場合は住所地特例が適用され、保険者は元の市区町村のままになります(グループホームと地域密着型特養は対象外です)。判断が難しいので、移す前に市区町村の介護保険課に確認してください。

このページの数字はどこから来ていますか。

厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」で公表されている全国のデータを2026年6月末時点で取得し、同一事業所の重複を整理したうえで市区町村ごとに集計したものです。対象は全国1,889市区町村。「1つもない」は、その市区町村に該当する事業所・施設が0件であることを指します。都道府県別の表は、県内の市区町村のうち該当するものの数と割合です。負担限度額の改定については厚生労働省の通知によりますが、金額は改定直後のため掲載していません。区分支給限度基準額は制度上の単位数です。

親が施設に移ったあと、実家をどうするか

在宅から施設に切り替えると、実家が空いたままになります。空き家は持っているだけで固定資産税と管理の負担が続くので、費用計画にも効いてきます。急いで決める必要はありませんが、選択肢だけは知っておいてください。姉妹サイトの実家じまいナビで扱っています。