介護休業93日の使い方|仕事を辞めずに乗り切る6つの制度

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親が倒れて、会社に何と言えばいいのか分からないまま数日が過ぎる。有給を使い切りそうで、そのうち「辞めるしかないのかもしれない」と考え始める。介護の相談で最も多いのが、この段階です。

制度は、あります。介護休業は通算93日まで、3回に分けて取れます。その間、雇用保険から賃金の67%が出ます。介護休暇は年5日、1時間単位で取れます。残業の免除も、深夜勤務の免除も、請求すれば会社は断れません。

それでも、実際に使っている人はごくわずかです。介護をしながら働いている雇用者322万人のうち、これらの制度を何か1つでも使った人は11.6%しかいません。介護休業に限れば1.6%、5万1千人です。

この記事は、6つある制度の中身と、93日を何に使うことになるのかを、公的なデータで最後まで追いかけます。結論を先に書きます。介護休業は「介護をするための休み」ではなく、「自分がいなくても回る体制をつくるための93日」です。ここを取り違えると、93日を使い切ったあとに何も残りません。

介護休業は、介護をするための休みではない

介護休業を「親の面倒を見るために休む制度」だと思って申し出ると、たいてい失敗します。93日は約3か月です。親の介護は3か月では終わりません。平均でも数年、認知症なら10年を超えることもあります。3か月休んで自分で介護をして、そのあとどうするのか、という問題が必ず残ります。

厚生労働省がこの制度について繰り返し説明しているのは、そこではありません。93日は、介護保険の申請をして、ケアマネジャーを決めて、サービスを入れて、そのサービスで日常が回るかどうかを確かめるための期間です。自分が手を動かす期間ではなく、自分が手を動かさなくても済む形をつくる期間です。

この違いは、休業中の過ごし方をまるごと変えます。前者なら、朝から晩まで親のそばにいて、93日目に元の生活へ戻り、また同じ問題に直面します。後者なら、平日の日中を役所とケアマネジャーとの打ち合わせに使い、サービスが入り始めたら意図的に手を引いて、自分がいない状態を試します。

そして93日を3回に分けられるのは、まさにそのためです。1回目で認定とケアプランをつくり、いったん仕事に戻る。半年後に状態が変わって組み直しが必要になったら2回目を使う。施設に移すと決めたら3回目を使う。制度は最初から、介護が長く続くことを前提に設計されています。

使える制度は6つある

育児・介護休業法が定めているのは、介護休業だけではありません。全部で6つあります。休む量の大きい順に並べると、次のようになります。

制度 使える量 賃金 向いている場面
介護休業 対象家族1人につき通算93日・3回まで 雇用保険から67% 体制を立ち上げる/組み直す
介護休暇 年5日(家族2人以上は10日)・1時間単位 会社の規定による 通院の付き添い、ケアマネとの打ち合わせ
短時間勤務等の措置 利用開始から3年以上の間に2回以上 働いた分 毎日決まった時間に帰る必要があるとき
所定外労働の制限 1か月〜1年を何回でも 働いた分 残業をなくしたいとき
時間外労働の制限 1か月〜1年を何回でも 働いた分 月24時間・年150時間を超えさせたくないとき
深夜業の制限 1か月〜6か月を何回でも 働いた分 夜に家を空けられないとき

加えて2025年4月から、介護をする労働者がテレワークを選べるようにすることが、会社の努力義務になりました。義務ではないので断られることはありますが、就業規則にない場合でも相談する根拠にはなります。

この6つのうち、いちばん最初に使うべきなのは介護休暇です。年5日を1時間単位で取れるので、要介護認定の訪問調査に立ち会う、地域包括支援センターに行く、ケアマネジャーと30分打ち合わせる、といった用事をほぼ有給を減らさずに片付けられます。介護休業のように2週間前の申出も要りません。

逆に、介護休業をいきなり長く取ってしまうと、あとで本当に必要になったときに残りがありません。93日は、対象家族1人につき生涯で93日です。年ごとにリセットされる制度ではないので、使い方を先に決めてから申し出てください。

介護休業|93日を3回に分けて取れる

介護休業の骨格は4つの数字で説明できます。

介護休業制度の骨格休める日数 93日 対象家族1人につき通算; 分割できる回数 3回 まで分けて取れる; 給付金の支給率 67% 休業開始時賃金日額の; 給付金の上限 366,222円 1か月あたり介護休業制度の骨格対象家族1人あたりに使える量と、もらえる金額休める日数93日対象家族1人につき通算分割できる回数3回まで分けて取れる給付金の支給率67%休業開始時賃金日額の給付金の上限366,222円1か月あたり93日は「介護をする期間」ではなく「体制をつくる期間」として設計されている

出典:厚生労働省「介護休業制度特設サイト」、厚生労働省「令和8年8月1日からの基本手当日額等の適用について」

対象になるのは「2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態」の家族です。厚生労働省は要介護状態を「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」と定義しています。要介護認定が出ていることは条件ではありません。申請中でも、認定を受けていなくても、この状態に当たれば取れます。

ここは誤解が多いところです。「認定が出てから休もう」と待っていると、認定に約30日かかるので、その間の付き添いや手続きを全部有給で埋めることになります。認定を待つ期間こそ、介護休業を使う場面です。

対象家族の範囲も広く取られています。配偶者(事実婚を含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母。同居や扶養の要件はありません。別居している親でも、義理の親でも取れます。

項目 内容
日数 対象家族1人につき通算93日
分割 3回まで
対象家族 配偶者(事実婚含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母
要介護状態 2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態。認定の有無は問わない
申出の期限 休業開始予定日の2週間前までに書面等で
有期雇用の要件 開始日から93日を経過する日の6か月後までに契約が満了し更新されないことが明らかでないこと
労使協定で除ける人 継続雇用1年未満/申出から93日以内に雇用が終わることが明らかな人/週の所定労働日数2日以下

申出は開始日の2週間前までです。育児休業の1か月前より短く設定されているのは、介護が突然始まるからです。ただし2週間前を過ぎても会社が拒めるわけではなく、開始日を遅らせることができるにとどまります。間に合わないと思っても、まず申し出てください。

パート・契約社員でも取れます。有期雇用の場合の要件は「93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと」です。二重否定で読みにくいのですが、要するに近い将来に確実に契約が切れると決まっている人以外は対象です。「更新されるかどうか分からない」は、対象になります。

給付金は実際いくら入るか

介護休業中の賃金を会社が払う義務はありません。多くの会社は無給です。その代わりに雇用保険から介護休業給付金が出ます。

支給額は休業開始時賃金日額の67%です。ここでいう賃金日額は、休業前6か月の賃金を180で割った額です。ボーナスは含みません。上限があり、2026年8月1日以降に始まる休業では、1か月あたり366,222円が上限です。

休業前の月給(賞与を除く) 1か月あたりの給付額(目安) 93日分の合計(目安)
20万円 約13.4万円 約41.5万円
25万円 約16.8万円 約51.9万円
30万円 約20.1万円 約62.3万円
40万円 約26.8万円 約83.1万円
55万円以上 366,222円(上限) 約113.5万円

給付金は非課税で、雇用保険料もかかりません。所得税も住民税もかかりません。ここまでは有利です。

ただし、介護休業中の社会保険料は免除されません。日本年金機構が用意している保険料の免除は「産前産後休業」と「育児休業等」の2つだけで、介護休業はそこに入っていません。健康保険料も厚生年金保険料も、休んでいる間もそのまま発生します。無給であれば給与から天引きできないので、会社が立て替えて、あとで請求されるのが一般的です。

月給30万円の会社員なら、社会保険料の本人負担はおおむね月4万円台です。給付金20.1万円から4万円台が出ていくと、手元に残るのは16万円前後になります。「賃金の67%が入る」ではなく「67%から社会保険料を引いた額が残る」と考えてください。

もう1つ、住民税は前年の所得に対してかかるため、休業中も満額請求されます。普通徴収に切り替わって納付書が届くか、会社が立て替えるかは会社によります。申し出る前に、休業中の社会保険料と住民税をどう払うことになるのかを、必ず総務に確認してください。ここを聞かずに休むと、復帰した月の給与から数か月分がまとめて引かれます。

申請は、原則として会社が休業終了後にハローワークへまとめて行います。分割して取った場合は、それぞれの休業ごとに申請します。振り込まれるのは休業が終わって1〜2か月後になるため、休業中の生活費は先に手元に用意しておく必要があります。

介護休暇|年5日、1時間から取れる

介護休暇は、介護休業とは別枠の制度です。対象家族が1人なら1年に5日、2人以上なら10日まで、1日または1時間単位で取れます。2021年から時間単位での取得ができるようになり、中抜けも含めて柔軟に使えます。

厚生労働省は用途として「通院の付添いや介護サービスの手続代行の場合などでも利用できる」「ケアマネジャーなどとの短時間の打合せにも活用できる」と説明しています。介護そのものだけでなく、手続きに使えると明記されているのが重要です。

使える場面 目安の時間
要介護認定の訪問調査に立ち会う 1〜2時間
地域包括支援センターに相談に行く 1〜2時間
ケアマネジャーとサービス担当者会議に出る 1時間
親を病院へ連れて行く 半日
役所で手続きをする(申請、住所変更、負担限度額認定など) 1〜2時間
施設を見学する 半日

有給か無給かは会社の規定によります。無給の会社が多数派ですが、時間単位なので減る額は限られます。時給換算で2時間なら、多くの人にとって数千円です。その数千円で有給を1日消費せずに済むと考えると、使わない理由がありません。

2025年4月から、労使協定で除外できる労働者から「継続雇用6か月未満」の要件が廃止されました。入社直後でも介護休暇を取れるようになったということです。転職した直後に親が倒れた、というケースで効いてきます。除外できるのは「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」だけになりました。

休まずに続けるための3つの請求

休むより、働き方を変えるほうが現実的な場面は多くあります。育児・介護休業法は、休まずに続けるための請求権を3つ用意しています。いずれも労働者が請求すれば、会社は事業の正常な運営を妨げる場合を除いて拒めません。

制度 効果 1回あたりの期間 回数
所定外労働の制限 1日・1週の所定労働時間を超える労働が免除される(残業ゼロ) 1か月以上1年以内 何回でも
時間外労働の制限 1か月24時間・1年150時間を超える法定時間外労働が免除される 1か月以上1年以内 何回でも
深夜業の制限 22時〜5時の労働が免除される 1か月以上6か月以内 何回でも

所定外労働の制限は、残業を完全になくす請求です。時間外労働の制限は、月24時間・年150時間までは残業が残ります。残業をゼロにしたいなら、請求するのは「所定外労働の制限」のほうです。名前が似ているので取り違えやすい2つです。

深夜業の制限は、夜勤やシフト勤務がある人にとって決定的です。夜に親を1人にできない状況で夜勤を外せるかどうかは、離職するかどうかの分岐点になります。

短時間勤務等の措置は、この3つとは性質が違います。会社は短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成のうち、いずれか1つ以上を用意すればよいことになっています。どれを用意するかは会社が決めるので、「短時間勤務が使えると思っていたら、うちは時差出勤だけだった」ということが起こります。就業規則を先に確認してください。用意された制度は、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上使えます。

制度はあるのに、使っている人は11.6%

ここまで6つの制度を見てきました。では、実際にどれくらい使われているのでしょうか。

介護をしている雇用者322万人のうち、両立支援制度を使った人制度を利用した 11.6%; 利用していない 88.4%介護をしている雇用者322万人のうち、両立支援制度を使った人介護休業・介護休暇・短時間勤務などのいずれかを利用したかどうか11.6%制度の利用あり制度を利用した11.6%利用していない88.4%制度はあるのに、9割近くは何も使わないまま介護している

出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」(厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法について」掲載の集計値)

総務省の就業構造基本調査によれば、介護をしている雇用者322万人のうち、両立支援制度を何か1つでも利用した人は11.6%です。9割近くが、制度を1つも使わないまま介護をしています。

制度別に見ると、順番が逆転しているのが分かります。

制度別に見た利用率(介護をしている雇用者322万人に対する割合)介護休暇 4.5%/14万5千人; 短時間勤務 2.3%/7万5千人; 介護休業 1.6%/5万1千人制度別に見た利用率(介護をしている雇用者322万人に対する割合)いちばん手厚い介護休業が、いちばん使われていない介護休暇4.5%/14万5千人短時間勤務2.3%/7万5千人介護休業1.6%/5万1千人正規は15.0%、非正規は8.7%。雇用形態でも差が出ている

出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」(厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法について」掲載の集計値)

最も使われているのが介護休暇の4.5%(14万5千人)、次いで短時間勤務の2.3%(7万5千人)、最も手厚い介護休業は1.6%(5万1千人)です。制度が大きいほど使われていない、という関係になっています。

雇用形態でも差があります。正規の職員・従業員は15.0%、非正規は8.7%。非正規のほうが制度を知らされていない、あるいは言い出しにくいという構造がここに出ています。

使われない理由は、大きく3つに整理できます。1つ目は、制度を知らない。2つ目は、収入が減るのが怖い。3つ目は、言い出すと評価やキャリアに響くと思っている。3つとも、会社に聞かないまま自分で結論を出している点が共通しています。

そして2025年4月から、この「知らないまま」を減らすための義務が会社に課されました。後述します。

介護離職は、15年間減っていない

介護休業制度は、2016年に93日の分割取得が可能になり、2017年に介護休暇の半日単位が導入され、2021年に時間単位になり、2025年に会社の周知義務が加わりました。制度は着実に広がってきました。では、介護離職は減ったのでしょうか。

介護・看護のために仕事を辞めた人(過去1年間)離職者数: 平成19年|(2007) 14.4, 平成24年|(2012) 10.1, 平成29年|(2017) 9.9, 令和4年|(2022) 10.6介護・看護のために仕事を辞めた人(過去1年間)制度が拡充されてきた15年間で、離職者は10万人前後から動いていない0481216万人14.4万人10.1万人9.9万人10.6万人平成19年(2007)平成24年(2012)平成29年(2017)令和4年(2022)10年下がり続けたあと、直近の5年で7千人増えた

出典:総務省「就業構造基本調査」(平成19年・24年・29年・令和4年)

過去1年間に介護・看護のために前職を辞めた人は、2007年の14.4万人から2012年に10.1万人へ減り、そのあとは10万人前後で動いていません。2022年は10.6万人で、5年前より7千人増えています。

一方で、介護をしながら働いている人は増え続けています。

介護をしながら働いている人の推移平成24年 291.0; 平成29年 346.3; 令和4年 364.6介護をしながら働いている人の推移10年で73.6万人増えた0100200300400万人291.0平成24年346.3平成29年364.6令和4年分母は増え続けているのに、制度の利用率は11.6%のまま

出典:総務省「就業構造基本調査」(平成19年・24年・29年・令和4年)

2012年の291.0万人から2022年の364.6万人へ、10年で73.6万人増えました。介護をしながら働く人が2割増えているのに、離職者数は横ばい。離職率という意味では改善しているとも読めますが、絶対数として毎年10万人が辞め続けている事実は変わっていません。

厚生労働省は、介護に直面する年齢層について「55〜59歳の10人に1人以上が介護に直面している」としています。管理職として脂の乗った世代が、まとまって抜けていくということです。会社にとっても損失が大きいため、2025年の法改正はここを狙って設計されています。

この10.6万人という数字を、自分の側から読み直すとこうなります。制度を使わずに介護に入ると、辞めるという選択肢だけが残りやすい。制度を使った11.6%の側に入るかどうかが、分かれ目になります。

93日を何に使うことになるか

では、介護休業を取ったとして、93日はどう消えていくのか。在宅の体制を一から立ち上げる場合の標準的な流れが、次のようになります。

介護休業93日を、何に使うことになるか要介護認定の申請〜認定 約30日; ケアプラン作成〜利用開始 約2週間; 使ってみて組み直す 約1か月; 予備(想定外の対応) 約19日介護休業93日を、何に使うことになるか在宅の体制を一から立ち上げる場合の標準的な流れ0日30日60日93日要介護認定の申請〜認定約30日ケアプラン作成〜利用開始約2週間使ってみて組み直す約1か月予備(想定外の対応)約19日93日のうち3分の1は、認定の結果を待つ時間で消える

出典:介護保険法第27条(申請から認定まで原則30日)をもとにマモリア作成

最初の壁は要介護認定です。介護保険法は、申請のあった日から原則30日以内に結果を通知すると定めています。この間、暫定ケアプランでサービスを先行して使うことはできますが、区分が確定しないと支給限度額が決まらないため、本格的な組み立てはできません。93日のうち、およそ3分の1は結果を待つ時間で消えます。

認定が出たらケアマネジャーを決め、ケアプランをつくり、サービス担当者会議を経て利用が始まります。ここに2週間前後。実際にサービスが入り始めてから、合っているかどうかを見るのに1か月。合わなければ事業所を変えるので、さらに時間がかかります。

期間 やること 自分がいなくてもできるか
1〜30日目 要介護認定の申請、訪問調査の立ち会い、主治医意見書の依頼、地域包括支援センターへの相談 訪問調査の立ち会いだけは同席が望ましい
31〜44日目 ケアマネジャーの選定、ケアプラン作成、サービス担当者会議 会議への出席は必要
45〜74日目 サービス利用開始、生活パターンの確認、合わない事業所の入れ替え 意識的に手を引いて試す期間
75〜93日目 想定外の対応(入院、区分変更申請、住宅改修など) 予備として空けておく

この表で最も重要なのは、45日目以降の「意識的に手を引く」です。自分がいる状態でうまく回っていても、それは体制が整った証明にはなりません。復帰後に成り立つかどうかは、休業中に自分が抜けてみないと分かりません。休業の後半を「試運転期間」として空けておかないと、復帰初週に破綻します。

そして、この93日で分かることの1つが「在宅では無理だ」という結論です。それも成果です。その場合は残りの日数を施設探しに使い、必要なら2回目・3回目の分割を入居手続きのために残しておきます。

2025年4月から、会社の義務が変わった

2025年4月1日から、介護に関する事業主の義務が5つ増えました。使われていない現状を変えるための改正です。

会社に課された義務 内容
個別の周知・意向確認(義務) 介護に直面した旨を申し出た労働者に、介護休業制度・申出先・給付金について個別に知らせ、利用の意向を確認する
雇用環境の整備(義務) 研修の実施、相談窓口の設置、取得事例の収集・提供、利用促進の方針の周知のいずれかを行う
40歳到達時の情報提供(義務) 労働者が40歳に達する時期に、介護休業や両立支援制度の情報を提供する
介護休暇の要件緩和(義務) 労使協定で除外できる労働者から「継続雇用6か月未満」を廃止
テレワークの導入(努力義務) 介護をする労働者がテレワーク等を選べるよう措置を講ずる

実務上いちばん効くのは1つ目です。「親の介護が始まりました」と会社に伝えれば、会社には制度を説明し、使う意思があるかを確認する義務が生じます。周知の方法は面談、書面交付、FAX、電子メールのいずれかと決められています。口頭で流されて終わり、にはできません。

つまり、自分から制度名を挙げて交渉する必要はありません。「介護が始まった」と申し出るだけで、説明を受ける立場に立てます。何を使うかを決めてから相談するのではなく、まず直面した事実を伝えるのが、2025年以降の正しい順番です。

40歳到達時の情報提供も見逃せません。介護保険料を払い始める年齢と揃えられており、親がまだ元気なうちに制度を知る機会をつくる狙いです。届いた案内を読んでいなければ、人事に再送してもらってください。

会社に言う前に決めておく3つ

制度が整っていても、切り出し方を誤ると必要以上に不利になります。伝える前に、次の3つだけ決めておいてください。

1つ目は、辞めるという選択肢を口に出さないことです。「辞めようかと思っていて」と前置きすると、会社側の話は引き止めか退職手続きの二択に寄ります。伝えるべきは「介護に直面したので、制度の説明を受けたい」です。それだけで会社の義務が発動します。

2つ目は、休むのか、働き方を変えるのかを分けて考えることです。認定が出るまでの1か月は介護休業、その後は所定外労働の制限と介護休暇、というように組み合わせるのが現実的です。最初から93日を丸ごと申し出る必要はありません。

3つ目は、お金の確認です。休業中の社会保険料と住民税の扱い、給付金の振込時期、賞与の算定にどう影響するか。この3つを総務に聞いてから決めれば、復帰後に想定外の請求が来ることはありません。

なお、介護休業や介護休暇の申出・取得を理由とする解雇や不利益な取扱いは、法律で禁止されています。実際に不利益な扱いを受けた場合の相談先は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。

制度で休めても、地域にサービスがなければ埋まらない

ここまでは制度の話です。しかし93日で体制がつくれるかどうかは、制度ではなく、親が住んでいる市区町村で決まります。

マモリアでは、厚生労働省の介護サービス情報公表システムから全国215,550事業所を集計し、1,889市区町村ごとにどのサービスがあるかを調べています。そこで分かるのは、「制度上あるサービス」と「その町にあるサービス」は別だということです。

93日で在宅の体制をつくれるかは、住んでいる市区町村で決まる夜間に来てもらえるサービスがない 1,089自治体/57.6%; 認知症対応型のデイがない 914自治体/48.4%; 訪問看護がない 363自治体/19.2%; 特別養護老人ホームがない 91自治体/4.8%93日で在宅の体制をつくれるかは、住んでいる市区町村で決まる全国1,889市区町村のうち、そのサービスが1事業所もない自治体の数夜間に来てもらえるサービスがない1,089自治体/57.6%認知症対応型のデイがない914自治体/48.4%訪問看護がない363自治体/19.2%特別養護老人ホームがない91自治体/4.8%制度で休みは取れる。使えるサービスがあるかどうかは、別の問題

出典:マモリア調べ(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」2026年6月末時点/全国1,889市区町村)

夜間に来てもらえるサービス(定期巡回・随時対応型、夜間対応訪問介護、看護小規模多機能型)が1つもない自治体は1,089あり、全体の57.6%を占めます。過半数の地域では、夜の急変に駆けつけてもらう仕組みがそもそも選べません。

訪問看護がない自治体は363(19.2%)。医療的なケアが必要になったときに在宅を続ける前提が崩れます。認知症対応型のデイサービスがない自治体は914(48.4%)で、こちらは半数近くです。

これが93日にどう効くかというと、こうです。ケアマネジャーが組めるケアプランは、その町にある事業所の範囲内でしか作れません。「夜が不安なので夜間対応を入れましょう」という選択肢が、そもそも提示されない地域が過半数あります。休業を取って全力で動いても、埋まらない穴が残ります。

だからこそ、休業に入る前に確認しておくべきなのは制度の条文ではなく、親の市区町村に何があるかです。ここが分かっていれば、93日の使い方が変わります。夜間対応がない地域なら、最初から「泊まり」を軸に組むか、施設を前提に動くか、保険外のサービスで埋めるかを検討することになります。

公的サービスで埋まらない部分を補う方法もあります。介護保険外のサービスは、時間や内容の制限がない代わりに全額自己負担です。夜間の見守り、通院の付き添い、買い物の代行など、ケアプランに載らない用事を頼めます。介護休業から復帰した直後の数週間だけ厚めに使う、という使い方が現実的です。

まとめ

押さえること 数字・内容
介護休業 対象家族1人につき通算93日・3回まで分割可
給付金 賃金日額の67%。上限は1か月366,222円(2026年8月以降)
手取りの注意 非課税だが社会保険料は免除されない。住民税も発生する
介護休暇 年5日(家族2人以上は10日)・1時間単位。2025年4月から入社直後でも取れる
休まない選択肢 所定外労働の制限(残業ゼロ)/時間外労働の制限(月24時間・年150時間)/深夜業の制限
実際の利用率 介護をしている雇用者322万人のうち11.6%。介護休業だけなら1.6%
介護離職 年10.6万人。15年間ほぼ横ばいで、直近5年は7千人増
2025年4月の改正 介護に直面したと申し出れば、会社に個別周知と意向確認の義務が生じる
93日の中身 認定待ちに約30日、ケアプランに約2週間、試運転に約1か月、予備に約19日
地域差 夜間に来てもらえるサービスがない自治体が1,089(57.6%)

いちばん実務的な一手は、明日にでも会社に「親の介護が始まった」と伝えることです。それだけで、会社には制度を説明し意向を確認する義務が生じます。制度名を調べてから、と考えているうちに有給が減っていきます。

そして休業に入る前に、親の市区町村に何があるかを見ておいてください。93日という時間は、選択肢がある地域では十分ですが、ない地域では足りません。足りないと分かっているなら、最初から施設も並行して見ておく、という判断ができます。

よくある質問

要介護認定が出ていなくても介護休業は取れますか。

取れます。介護休業の要件は「2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態」であることで、要介護認定の有無は条件になっていません。むしろ認定には申請から原則30日かかるため、その待機期間こそ介護休業が想定している場面です。会社から認定通知書の提出を求められた場合は、法律上の要件ではないと説明したうえで、診断書など状態が分かる書類で代えられないか相談してください。

介護休業を93日全部使い切ったら、もう取れませんか。

同じ対象家族については取れません。93日は対象家族1人につき通算の上限で、年ごとにリセットされません。ただし対象家族が別の人であれば、その人について新たに93日使えます。父について93日使い切っていても、母が要介護状態になれば母について93日取れます。だからこそ、1人目で丸ごと使い切らない設計にしておくことが大切です。

パートや契約社員でも取れますか。

取れます。有期雇用の場合の要件は「休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと」です。更新されるか分からない状態は「明らかでない」に当たるので対象になります。除外できるのは労使協定がある場合の「継続雇用1年未満」「週の所定労働日数2日以下」などに限られます。介護休暇については2025年4月から「継続雇用6か月未満」の除外が廃止され、入社直後でも取れるようになりました。

介護休業中の社会保険料はどうなりますか。

免除されません。日本年金機構が定める保険料免除の対象は「産前産後休業」と「育児休業等」の2つだけで、介護休業は含まれていません。無給の場合は給与から天引きできないため、会社が立て替えて後日精算するのが一般的です。月給30万円の会社員でおおむね月4万円台になります。住民税も前年所得に対して発生するので、この2つをどう払うかを事前に総務へ確認してください。

給付金はいつ振り込まれますか。

休業が終わってから1〜2か月後が目安です。申請は原則として会社が休業終了後にハローワークへまとめて行うため、休業中に入金されることはありません。分割して取得した場合は、それぞれの休業ごとに申請します。休業期間中の生活費は先に用意しておく必要があります。

別居している親や、義理の親でも対象になりますか。

なります。対象家族は配偶者(事実婚を含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母で、同居や扶養の要件はありません。遠方に住む実家の親も、同居していない配偶者の親も対象です。遠距離の場合は移動時間が大きいため、介護休暇の時間単位取得よりも介護休業と組み合わせるほうが実務的です。

残業をなくしたいのですが、どの制度を請求すればいいですか。

「所定外労働の制限」です。これを請求すると、1日および1週の所定労働時間を超える労働が免除されます。名前の似た「時間外労働の制限」は月24時間・年150時間を超える法定時間外労働を免除する制度で、その範囲内の残業は残ります。残業をゼロにしたいなら請求するのは前者です。いずれも1回につき1か月以上1年以内で、回数の制限はありません。

短時間勤務を使いたいのに、会社にその制度がありません。

会社は短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成のうち、いずれか1つ以上を用意すればよいことになっています。短時間勤務がなくても違法とは限りません。まず就業規則で何が用意されているかを確認してください。用意された制度は、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上使えます。あわせて2025年4月からテレワークの導入が努力義務になったので、そちらを相談する余地もあります。

会社に介護のことを言うと、評価に響きませんか。

介護休業や介護休暇の申出・取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、育児・介護休業法で禁止されています。実際に不利益な扱いを受けた場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談窓口です。また2025年4月からは、介護に直面したと申し出た労働者に対して制度を個別に周知し意向を確認することが会社の義務になりました。申し出ること自体が、制度上は保護された行為です。

93日で在宅の体制が整わなかったらどうすればいいですか。

整わないと分かったこと自体が成果です。その場合は残りの日数を施設探しに切り替えてください。介護休業は3回に分割できるので、1回目で在宅を試し、2回目を入居先の見学と契約に充てる、という使い方ができます。特に夜間に来てもらえるサービスがない1,089自治体、訪問看護がない363自治体では、在宅を続ける前提が構造的に成り立たないことがあります。地域に何があるかを先に確認しておくと、判断が早くなります。