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パンフレットと、実際に住む場所は違います。見学は、その差を埋める唯一の機会です。
ただ、初めての見学で「何を聞けばいいか分からないまま案内が終わってしまった」という話をよく聞きます。案内する側も慣れているので、聞かなければ聞かれないことは説明されません。
この記事では、必ず聞くべき12の質問をまとめます。あわせて、全国35,538施設の公的データから見えた、見学の効率を上げる13番目の質問もお伝えします。
見学前に決めておくこと
質問の前に、こちらの条件を整理しておいてください。これがないと、聞いても判断できません。
| 項目 | 確認しておくこと |
|---|---|
| 要介護度 | 認定前なら「申請中」と伝える |
| 医療的ケア | インスリン、たん吸引、経管栄養、透析、酸素療法の有無 |
| 認知症 | 診断の有無。徘徊、暴言、昼夜逆転の有無と程度 |
| 予算 | 年金額+家族が負担できる額。一時金を出せるか |
| 住民票 | どの市区町村にあるか |
とくに医療的ケアと認知症の症状は、入居を断られるいちばんの理由です。隠して話を進めても、入居前の面談で必ず判明します。最初に正直に伝えてください。
住民票も重要です。グループホームと地域密着型特養は、原則としてその市区町村に住民票がある人しか入れません。
お金について聞く4つの質問
1. 月額の総額はいくらか。パンフレットの金額に含まれないものは何か
「月額18万円」と書いてあっても、それは家賃・管理費・食費だけのことが多いです。
| 含まれないことが多い項目 | 月額の目安 |
|---|---|
| おむつ代 | 5,000〜15,000円 |
| 医療費・薬代 | 数千〜数万円 |
| 理美容代 | 2,000〜4,000円 |
| レクリエーション費 | 実費 |
| 日用品費 | 数千円 |
実際は月2〜5万円上振れします。「これ以外に毎月かかるものを全部教えてください」と聞いてください。
2. 入居一時金は、途中で退去したらいくら戻るか
有料老人ホームの一時金には償却期間があります。確認すべき数字は3つです。
| 確認する数字 | 意味 |
|---|---|
| 初期償却率 | 入居した時点で返金対象から外れる割合。0〜30%が一般的 |
| 償却期間 | 残りを何年で使い切るか。3〜10年 |
| 途中退去時の返金額 | 上の2つから計算できるが、具体的な金額を書面で出してもらう |
「5年で全額償却、初期償却30%」なら、一時金600万円のうち180万円は入居初日に消えます。
「1年で退去した場合、いくら戻りますか」と具体的に聞いてください。
3. 要介護度が上がったら、月額はいくら増えるか
介護度が上がれば自己負担も上がります。要介護3から5になった場合の金額を、具体的に出してもらってください。
4. 値上げの実績はあるか。過去3年で何回上げたか
これから何年も住む場所です。過去の実績が、将来の見通しになります。
体制について聞く4つの質問
5. 夜勤は何人か。入居者何人に対して何人か
日中の人員配置はどこも似ています。差が出るのは夜間です。
入居者50人を夜勤2人で見る施設と、3人で見る施設では、呼び出しへの対応がまったく違います。
6. 職員の平均勤続年数はどのくらいか
数字を持っていない施設もありますが、聞くこと自体に意味があります。答えに詰まる、あるいは「若い職員が多くて」と濁される場合は、入れ替わりが激しい可能性があります。
7. 看護師は常駐か、日中のみか、オンコールか
医療的ケアが必要なら、ここが決定的です。「看護師配置あり」の中身は施設によってまったく違います。
| 体制 | 対応できること |
|---|---|
| 24時間常駐 | たん吸引、経管栄養なども対応可能なことが多い |
| 日中のみ | 夜間の医療的ケアは不可 |
| オンコール | 呼べば来るが、常時対応ではない |
| 配置なし | 医療的ケアは原則不可(グループホームに多い) |
8. どういう状態になったら退去をお願いされるか
これは必ず聞いてください。「終身」と謳っていても、実際には医療依存度が上がると退去要件に該当するケースがあります。
契約書のどこに書いてあるかまで確認してください。
暮らしについて聞く4つの質問
9. 家族はいつでも面会できるか。人数や時間の制限は
10. 居室に持ち込めるものは何か。仏壇やテレビは置けるか
11. 通院はどうなるか。付き添いは職員か家族か、費用はかかるか
通院付き添いが家族対応の施設だと、月に何度も呼び出されます。遠方に住んでいる場合は特に重要です。
12. 入居している方の平均年齢と要介護度は
同じ「介護付有料老人ホーム」でも、自立に近い方が多い施設と、寝たきりの方が中心の施設ではまるで違います。親の状態と合っているかを判断する材料になります。
データから分かった、13番目の質問
ここからは公的データを集計して見えたことです。
全国の高齢者向け住まいを運営する17,430法人のうち、6,275法人が2施設以上を運営しています。施設数でみると──
| 施設数 | 割合 | |
|---|---|---|
| 系列の他施設がある施設 | 24,257 | 68% |
| うち同じ市区町村内に系列がある | 15,233 | 43% |
さらに、住まいと在宅サービス(訪問介護やデイサービス)の両方を持つ法人が10,681あります。
つまり──
「こちらが空いていない場合、系列の他の施設や、在宅のサービスを紹介していただけますか」
この質問が有効な施設が、全体の3分の2以上あるということです。
見学した施設が満室でも、話はそこで終わりません。同じ法人の別施設なら、状況を引き継いだうえで検討してもらえます。空室待ちの間、系列のデイサービスやショートステイでつなぐ提案が出ることもあります。
1件断られるたびに一からやり直すのは、消耗します。断られたときこそ、次に繋がる質問をしてください。
見学のときに、目で見ておくこと
質問への答えと同じくらい、その場で観察できることがあります。
| 見るところ | 何が分かるか |
|---|---|
| におい | 換気と排泄ケアの質 |
| 職員の声かけ | 子ども扱いしていないか。名前で呼んでいるか |
| 入居者の様子 | 全員がテレビの前に座らされていないか |
| 職員同士の様子 | 表情が硬い、私語がまったくない職場は余裕がない可能性 |
| 廊下・共用部 | 案内された場所以外も見る |
| 掲示物 | 行事の写真、献立表が最新か |
| 私物の置き方 | 居室に生活感があるか |
できれば食事の時間帯に行ってください。生活の実態がいちばん出ます。
案内された場所だけでなく、廊下やフロアの様子を見てください。
見学当日の進め方
限られた時間で必要な情報を得るには、順番があります。
| 順番 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 玄関に入った瞬間のにおいを確認 | 慣れると分からなくなる。最初の数秒が勝負 |
| 2 | 施設側の説明を一通り聞く | 相手のペースを尊重する |
| 3 | こちらの状況を正直に伝える | 受け入れ可否がここで大体分かる |
| 4 | 12の質問をする | メモを見ながらで構わない |
| 5 | 居室・共用部を見せてもらう | 案内された場所以外も歩く |
| 6 | 入居者の様子を見る | 説明を聞きながらでも観察できる |
| 7 | 重要事項説明書をもらう | 「持ち帰って読みます」と伝える |
3を先にやってしまうと、受け入れ不可の場合に残りの時間が無駄になります。逆に言えば、早めに伝えれば別の施設を探す時間が確保できます。
質問しにくいと感じたら
「こんなことを聞いていいのか」と遠慮する方が多いのですが、聞かれ慣れています。
とくに費用と退去要件は、後でトラブルになるくらいなら最初に聞いた方が施設側にとってもよいことです。曖昧に答える施設、答えを渋る施設は、それ自体が判断材料になります。
言いにくければ、「他の施設でも同じことを伺っています」と前置きすると聞きやすくなります。
よくある失敗
| 失敗 | なぜ起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 1件しか見学しなかった | 時間がない | 最低3件。比較しないと基準ができない |
| 案内されるまま見て終わった | 質問を用意していない | この記事の12項目をメモして持参する |
| 月額だけ確認して契約した | その他費用を聞いていない | 「毎月かかるものを全部」と聞く |
| 医療的ケアを伝えなかった | 断られるのが怖い | 最初に伝える |
| その場で契約した | 押しに弱い | 重要事項説明書を持ち帰って読む |
| 本人を連れて行かなかった | 説得できていない | 可能なら本人も一緒に。相性がある |
| 平日昼間だけ見た | 都合がつかない | 夕方や食事時も見ると印象が変わる |
その場で契約する必要はまったくありません。重要事項説明書は必ずもらって、持ち帰って読んでください。
見学の流れ
| 段階 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 条件を整理する | 要介護度・医療的ケア・予算・エリア |
| 2 | 資料を取り寄せる | 数日 |
| 3 | 候補を3〜5件に絞る | ─ |
| 4 | 見学の日程を調整する | まとめて依頼できる |
| 5 | 見学する(1件30分〜1時間) | 1〜2週間で回る |
| 6 | 重要事項説明書を持ち帰る | ─ |
| 7 | 家族で比較・検討する | ─ |
| 8 | 申込み・面談 | 施設側の受け入れ判定 |
4の日程調整は、まとめて頼めます。1件ずつ電話をかけて予定を合わせるのは、働きながらでは現実的ではありません。
見学は複数行ってください
1件だけ見ても、それが良いのか悪いのか分かりません。最低3件、できれば5件見ると基準ができます。
3件見ると、この記事の12の質問への答えが施設によってどれだけ違うか分かります。夜勤の人数も、退去要件も、聞いてみると本当にバラバラです。
次にやること
日程の調整は、まとめて頼んでください。
※ 無料で利用できます。特別養護老人ホームは対象外なので、特養も検討する場合は市区町村の窓口かケアマネジャーへ。
3件を比べるための記録シート
見学から帰ると、どこがどうだったか必ず混ざります。その場でメモを取り、家に帰ってから表に整理してください。
| 項目 | A施設 | B施設 | C施設 |
|---|---|---|---|
| 月額(総額) | |||
| 一時金・初期償却率 | |||
| 夜勤の人数 | |||
| 看護師の体制 | |||
| 退去要件 | |||
| 通院の付き添い | |||
| 面会の制限 | |||
| におい | |||
| 職員の声かけ | |||
| 入居者の様子 | |||
| 自宅からの距離 | |||
| 総合 |
数字と印象を分けて記録するのがコツです。数字は後から比較できますが、印象は時間が経つと薄れます。
決め手になりやすい項目
家族の状況によって、優先すべき項目が変わります。
| 家族の状況 | 重視すべき項目 |
|---|---|
| 遠方に住んでいる | 通院の付き添い、緊急時の連絡体制 |
| 働きながら介護 | 面会時間の柔軟さ、通院付き添いの有無 |
| 医療的ケアが必要 | 看護師の体制、退去要件 |
| 費用が厳しい | 月額総額、値上げの実績、一時金の償却条件 |
| 認知症がある | 職員の声かけ、入居者の様子、夜勤体制 |
すべてを満たす施設はありません。何を優先するかを、見学前に家族で決めておいてください。
入居が決まってからやること
見学して申し込み、受け入れが決まると、1〜2週間で入居というスケジュールになることがあります。
| やること | 備考 |
|---|---|
| 必要書類の準備 | 健康診断書、住民票、印鑑証明など。施設により異なる |
| 身元引受人を決める | 契約時に必ず求められる |
| 日用品の準備 | 衣類、洗面用具、寝具(施設による) |
| 在宅サービスの解約 | ケアマネジャーに依頼 |
| 住所変更の手続き | 施設に住民票を移すかは要相談 |
| 医療機関への連絡 | 紹介状、お薬手帳の引き継ぎ |
衣類にはすべて名前を書く必要があります。数が多いので、早めに始めてください。
そして、住んでいた家をどうするかという問題が同時に始まります。
よくある質問
見学に本人を連れて行くべきですか。
可能なら連れて行ってください。本人と施設の相性は、実際に行かないと分かりません。ただし認知症が進んでいて混乱が予想される場合は、先に家族だけで下見をして、候補を絞ってから連れて行く方が負担が少ないことがあります。
1件あたりどのくらい時間がかかりますか。
30分から1時間程度です。移動時間を含めると、1日に回れるのは2〜3件が現実的です。
見学に費用はかかりますか。
かかりません。施設の見学は無料です。紹介サービス経由で申し込んでも費用は発生しません。
予約なしで行ってもいいですか。
必ず予約してください。担当者が不在だと、施設内を案内してもらえません。また、食事の時間帯を希望する場合は事前に伝えておくと調整してもらえます。
何を持って行けばいいですか。
この記事の12の質問をメモにしたもの、要介護認定の通知書(あれば)、お薬手帳のコピー、筆記用具です。その場でメモを取ってください。3件も回ると、どこがどうだったか必ず混ざります。
施設側からはどんなことを聞かれますか。
要介護度、認知症の有無と症状、医療的ケアの内容、服薬状況、経済状況、家族の連絡体制などです。答えられるように整理しておくと、判定が早く進みます。
見学した施設が満室でした。どうすればいいですか。
「系列の他の施設に空きはありますか」と聞いてください。全国の施設の68%は系列の他施設があり、43%は同じ市区町村内に系列を持っています。また、空室待ちの登録ができるかも確認しておいてください。
見学の予約はどのくらい前に取ればいいですか。
1週間前が目安です。施設側も担当者の予定を空ける必要があります。ただし急ぐ事情がある場合は、その旨を伝えれば数日以内に対応してもらえることもあります。複数施設を回るなら、同じ日に近い施設をまとめると効率的です。
断られた理由を教えてもらえますか。
聞けば教えてもらえることが多いです。理由が分かれば、次の施設選びの基準になります。医療的ケアが理由なら看護師常駐の施設を、症状が理由なら主治医に相談してから次を当たる、という判断ができます。
家族の意見が割れたら、どうすればいいですか。
見学に複数人で行ってください。同じ施設を見ても、印象は人によって違います。一人が見て報告するより、複数の目で見た方が納得が得られます。どうしても割れる場合は、「誰が主に対応するか」を基準にしてください。通院の付き添いや呼び出しに応じるのは、結局その人です。
遠方の施設でも見学した方がいいですか。
自宅から通える距離かどうかは、想像以上に重要です。入居後、体調不良や通院で呼び出されることがあります。片道2時間の施設だと、そのたびに1日が潰れます。費用や設備が多少良くても、距離が現実的でなければ続きません。
契約を急かされたら、どうすればいいですか。
その場で契約しないでください。「重要事項説明書を持ち帰って家族と相談します」と伝えて構いません。急かす施設は、それ自体が判断材料になります。
この記事のデータについて
出典:介護サービス情報公表システム(厚生労働省)/2026年6月末時点
同一施設が複数の指定区分で重複登録されているケースを、施設名と住所で名寄せして整理しています。公表データの「定員」欄は未報告が半数近くを占めるため集計に使用せず、施設の「数」のみを用いています。
費用や退去要件は施設ごとに異なります。契約前には必ず重要事項説明書と契約書をご確認ください。