有料老人ホームの入居一時金|返金の条件と確認すべき3つの数字

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有料老人ホームの入居一時金は、数十万円から数千万円まで幅があります。

そしてこの一時金をめぐるトラブルが、施設に関する相談で最も多いとされています。「短期間で亡くなったのに、ほとんど返ってこなかった」というものです。

これは施設が悪いのではなく、仕組みを知らずに契約したことが原因であることがほとんどです。一時金は「入居の権利を買うお金」ではなく、将来の家賃を前払いしているお金です。ここを取り違えると、返ってくるはずのものが返ってこなくなります。

そもそも一時金とは何か

将来受け取る家賃を、前払いしているお金です。

たとえば「一時金600万円、想定居住期間5年」なら、5年分の家賃を前払いしていることになります。そのぶん月額が安く設定されます。

だから5年住めば、一時金はすべて使い切ったことになります。返金はありません。これは正常な仕組みです。

問題は、5年より早く退去した場合に何が起きるかです。

想定居住期間を超えて住んだ場合

逆に、償却期間を超えて長く住んだ場合、追加で一時金を求められることはありません。前払いした分を使い切ったあとは、契約どおりの月額だけで住み続けられます。

つまり一時金は、長生きしたときに得をして、早く退去すると損をする仕組みです。寿命を賭けている、という言い方もできます。

確認すべき3つの数字

何を意味するか 目安
初期償却率 入居した時点で返金対象から外れる割合 0〜30%
償却期間 残りを何年かけて使い切るか 3〜10年
途中退去したときの返金額 上の2つから決まる実際の金額 必ず書面で出してもらう

1. 初期償却率

入居した時点で、返金対象から外れる割合です。

初期償却30%なら、一時金600万円のうち180万円は入居初日に消えます。翌日に亡くなっても返ってきません。

ここが最も見落とされます。0%の施設もあるので、必ず数字で確認してください。

2. 償却期間

残りの金額を、何年かけて使い切るかです。

初期償却30%・償却期間5年なら、残りの420万円を60か月で割って、月7万円ずつ減っていきます。

3年の施設もあれば、7年、10年の施設もあります。期間が長いほど、早く退去したときの返金は多くなります。

3. 途中退去したときの返金額

上の2つから計算できますが、必ず具体的な金額を出してもらってください。

「1年で退去した場合、3年で退去した場合、それぞれいくら戻りますか。書面でください」

この質問に即答できない、あるいは書面を渋る施設は、その時点で候補から外して構いません。見学のときに聞くべきことにもまとめてあります。

実際に計算してみる

一時金600万円、償却期間5年、1年で退去した場合の返金額です。初期償却率だけを変えて比べます。

初期償却率 初日に消える額 1年で退去したときの返金
0% 0円 480万円
10% 60万円 432万円
20% 120万円 384万円
30% 180万円 336万円

同じ600万円でも、初期償却率の違いだけで144万円の差が出ます。パンフレットの月額が同じでも、この数字が違えば別の契約です。

何年住めば一時金ありが得になるのか

「一時金を払う方が月額が安いから得」と説明されます。それは何年住むかで変わります。実際に並べてみます。

条件 一時金 初期償却 償却期間 月額
A(一時金あり) 600万円 30% 5年 20万円
B(一時金なし) 0円 − − 28万円

退去時に返ってくる分を差し引いた、実際の支払総額です。

住んだ期間 A(一時金あり) B(一時金なし) 差
1年 504万円 336万円 Bが168万円安い
3年 1,152万円 1,008万円 Bが144万円安い
5年 1,800万円 1,680万円 Bが120万円安い
7年 2,280万円 2,352万円 Aが72万円安い
10年 3,000万円 3,360万円 Aが360万円安い
一時金ありが得になるのは、6年目から1年 A 一時金あり(600万円・月20万円)=504 B 一時金なし(月28万円)=336; 3年 A 一時金あり(600万円・月20万円)=1152 B 一時金なし(月28万円)=1008; 5年 A 一時金あり(600万円・月20万円)=1800 B 一時金なし(月28万円)=1680; 7年 A 一時金あり(600万円・月20万円)=2280 B 一時金なし(月28万円)=2352; 10年 A 一時金あり(600万円・月20万円)=3000 B 一時金なし(月28万円)=3360一時金ありが得になるのは、6年目から同じ条件で住み続けたときの累計支払額(単位:万円)A 一時金あり(600万円・月20万円)B 一時金なし(月28万円)01,0002,0003,0005043361年1,1521,0083年1,8001,6805年2,2802,3527年3,0003,36010年5年住んでもBが120万円安い。7年でAが逆転する。何年住むかを先に考える

条件A=一時金600万円・初期償却30%・償却期間5年・月額20万円/条件B=一時金なし・月額28万円で試算した例。実際の条件は施設ごとに異なります

上記は仕組みを説明するための計算例です。実際の条件は施設ごとに異なります。介護保険の自己負担分や食費などは含めていません。

この条件では、6〜7年目で逆転します。つまり償却期間を超えて住まないと、一時金を払った意味は出てきません。

85歳で入居して、平均的な在宅・施設での経過をたどるなら、7年は決して短くありません。何年住むかは誰にも分からない、という前提で選ぶことになります。

入居から90日以内なら取り消せる

老人福祉法にもとづく短期解約特例(いわゆる90日ルール)があります。前払金を支払って入居した契約が対象です。

扱い
初期償却分 返還される
実際に住んだ日数分の家賃 差し引かれる
食費・介護サービス費などの実費 差し引かれる
本人が亡くなった場合 適用される

「全額返る」と説明されることがありますが、正確には初期償却分を含めて返還され、実際に使った分だけが差し引かれるという意味です。ここを混同すると、返還額を見て「話が違う」と感じることになります。

予告期間を理由に短縮させることはできない

「解約は30日前の申し出が必要」という規定を根拠に、この90日を実質的に縮めることは認められていません。入居者の利益を不当に害するものとされています。

入居後3か月は、実際に住んでみて判断できる期間です。合わないと感じたら、90日以内に動いてください。この期間を過ぎると、条件は契約書どおりになります。

施設が倒産したらどうなるか

ここはほとんど説明されませんが、金額が大きいだけに知っておく必要があります。

有料老人ホームには、前払金の保全措置が義務づけられています。2006年に導入され、それ以前からある施設も含めて、2021年4月から全施設が対象になりました。

保全されるのは500万円まで

前払金 保全される額 保全されない額
300万円 未償却分の全額 0円
600万円 500万円まで 超過分
2,000万円 500万円まで 超過分
倒産しても戻るのは、500万円まで前払金 2,000万円 1,500万円が対象外; 前払金 600万円 100万円が対象外; 前払金 300万円 全額が保全される倒産しても戻るのは、500万円まで前払金のうち、保全措置の対象にならない金額前払金 2,000万円1,500万円が対象外前払金 600万円100万円が対象外前払金 300万円全額が保全される高額な一時金ほど、保全されない部分が大きくなる

出典:老人福祉法にもとづく前払金の保全措置。保全されるのは500万円までで、超えた分は施設が倒産すると戻らない可能性があります

保全の対象は「未償却の残額」または「500万円」の低い方です。つまり高額な一時金を払うほど、守られない部分が増えます。

保全の方法は、銀行等による債務保証、保証保険、信託会社との信託契約などです。どの方法で、どこが保全しているのかは重要事項説明書に書いてあります。必ず確認してください。

サービス付き高齢者向け住宅も、前払家賃について保全措置が求められます。サ高住は全国662施設です。

支払い方は3つから選べることがある

同じ施設でも、家賃の払い方を選べる場合があります。

方式 内容 向いている状況
全額前払い 想定居住期間分の家賃をまとめて払う 長く住む見込みがあり、資金に余裕がある
月払い 一時金なし。毎月家賃を払う 状態が変わりやすい。まとまった資金を動かしたくない
併用 一部を前払いし、残りを月払いにする 月額を下げたいが、全額は預けたくない

パンフレットに一時金の額だけが書かれていても、月払いを選べることがあります。「月払いはできますか」と聞くだけで、選択肢が増えることがあります。

一時金ゼロの施設という選択肢

入居一時金が0円で、月額のみの施設が増えています。

メリット デメリット
一時金あり 月額が安い。長く住むほど有利 初期費用が重い。早期退去で損をする
一時金なし 初期費用が軽い。退去しやすい 月額が高い

どちらが得かは、何年住むかで決まります。そして何年住むかは、誰にも分かりません。

高齢で、持病があり、状態が変わりやすい。そういう状況なら、一時金ゼロの方がリスクは低いと言えます。まとまった資金を動かさずに済むので、合わなかったときに次を探しやすい。

認知症の進行や医療依存度の上昇で、住み替えが必要になることもあります。動きやすさには値段がつかないところがあります。

その前に、在宅を続ける余地はないか

数百万円を動かす前に、在宅で続けられないかを一度確認しておいてください。ただし在宅の可否は、地域に何があるかで決まります。

夜間に来てくれるサービスが1つもない自治体は1,089(57.6%)、夜間対応の地域差は8倍あります。訪問介護は事業所の4割がホームページを持たず、ネット検索では見つかりません。退院後のリハビリの受け皿がない自治体も359あります。

在宅が続くかどうかは、家族の頑張りではなく地域の事業所数で決まる部分が大きいです。そこを確認したうえで施設を選ぶと、判断が早くなります。

契約前のチェックリスト

確認すること なぜ必要か
初期償却率と償却期間 返金額がここで決まる
1年・3年で退去した場合の返金額(書面) 口頭の説明と契約書がずれることがある
短期解約特例の記載 90日以内の扱いが明記されているか
保全措置の方法と保全機関 倒産時にどこまで戻るかが決まる
退去要件 「終身」でも医療依存度が上がると該当することがある
月額に含まれないもの おむつ代、医療費、レクリエーション費、理美容代など
値上げの条件 入居後に月額が変わる可能性がある

重要事項説明書は必ずもらって、持ち帰って読んでください。その場で契約する必要はまったくありません。見学の当日に判断を求められたら、それ自体が判断材料になります。

よくある失敗

失敗 なぜ起きるか 対策
入居2か月で亡くなり、ほとんど返らなかった 短期解約特例を知らず、施設の説明をそのまま受け入れた 90日以内なら初期償却分も返還対象だと知っておく
月額の安さだけで決めた 一時金と月額は連動していると理解していない 数年分の総額で比べる
返金額を口頭でしか聞かなかった その場の説明で納得してしまった 年数ごとの返金額を書面でもらう
2,000万円の一時金を払った直後に施設が閉鎖した 保全の上限が500万円だと知らない 保全措置の方法と上限を重要事項説明書で確認する
「終身」と聞いて安心した 退去要件を読んでいない 医療依存度が上がったときの扱いを確認する
月額に入っていない費用が積み上がった 提示された月額を総額だと思った おむつ代・医療費などの実費を別に見積もる

そもそも一時金のない施設

種類 施設数 一時金 月額の目安
特別養護老人ホーム 8,134 なし 5〜15万円
地域密着型特養 2,305 なし 5〜15万円
介護老人保健施設 3,994 なし 8〜15万円
軽費老人ホーム(ケアハウス) 506 施設による 6〜15万円
グループホーム 14,195 0〜数十万円 12〜20万円

施設数の出典:介護サービス情報公表システム(厚生労働省)2026年6月末時点。当サイトで重複を整理して集計。月額はおおよその目安で、地域と要介護度によって変わります。

特別養護老人ホームは、民間の紹介サービスでは扱われません。申し込みは市区町村の窓口か担当のケアマネジャーへ。要介護3以上が原則で、待機の状況は地域によって大きく違います。特養がゼロの自治体が91、1施設だけの自治体が397あります。

軽費老人ホーム(ケアハウス)は知名度が低い割に、月6〜15万円で入れる選択肢です。90%が社会福祉法人の運営で、ホームページを持たない施設は3.8%と少ないため、あることさえ分かれば調べられます。ただし全国575施設しかなく、1,511の自治体には存在しません。年金の範囲で入れる施設で詳しく扱っています。

一時金の有無を含めて、複数の施設を比較してください。同じ地域でも、施設によって条件はまったく違います。予算を伝えれば、その範囲の施設だけを出してもらえます。

施設の候補を、地域と予算から絞り込む

紹介サービスが無料で使える理由はこちらにまとめています。施設の種類ごとの費用は老人ホームの種類と費用をご覧ください。

まとめ

  1. 一時金は「権利を買うお金」ではなく、家賃の前払い
  2. 確認するのは初期償却率・償却期間・年数ごとの返金額の3つ
  3. 初期償却率の違いだけで、1年退去時に144万円の差が出ることがある
  4. 償却期間を超えて住まないと、一時金を払った意味は出てこない
  5. 入居から90日以内なら、初期償却分も含めて返還される
  6. 倒産時に保全されるのは未償却分か500万円のいずれか低い方
  7. 月払いを選べる施設もある。聞かないと出てこない
  8. 重要事項説明書は必ず持ち帰って読む

次にやること

候補の施設が決まっているなら、重要事項説明書を取り寄せて、初期償却率と償却期間、保全措置の欄を確認してください。まだ候補がないなら、予算を決めてから複数の施設の資料を並べて比べてください。

見学に進む段階では、見学で必ず聞くべき12の質問を持っていってください。費用の質問は、その場で聞かないと後から聞きにくくなります。

施設ごとの月額費用を並べて比べる

※ 無料で利用できます。特別養護老人ホームはこのサービスの対象外です。特養は市区町村の窓口かケアマネジャーへ。

よくある質問

入居してすぐ亡くなった場合、一時金は戻りますか。

入居から90日以内であれば、短期解約特例により初期償却分も含めて返還の対象になります。実際に住んだ日数分の家賃や食費などの実費は差し引かれます。90日を過ぎている場合は、契約書の償却の定めに従った金額になります。

返還金は誰が受け取りますか。

本人が亡くなっている場合、返還金は相続財産として扱われるのが一般的です。相続人が受け取ることになります。契約書に受取人の定めがある場合もあるので、契約時に確認しておいてください。

初期償却率は交渉できますか。

施設によっては、複数の料金プランが用意されており、初期償却率と月額の組み合わせを選べることがあります。個別の値引き交渉は難しいことが多いですが、プランの選択肢があるかどうかは必ず聞いてください。

償却期間が10年の施設は良心的ということですか。

早期に退去したときの返金は多くなります。ただし償却期間が長い施設は一時金そのものが高い傾向もあるので、一時金の額・初期償却率・月額をセットで比べてください。年数ごとの返金額を出してもらうのが確実です。

保全措置の500万円を超えた分は、まったく戻らないのですか。

保全措置による保護の対象外になる、という意味です。倒産した場合、超過分は他の債権と同じ扱いになり、どこまで戻るかは清算の結果次第です。高額な一時金を払うほど、この部分が大きくなります。

サービス付き高齢者向け住宅にも一時金はありますか。

サ高住は敷金方式が中心で、家賃の数か月分というのが一般的です。前払家賃を受け取る場合は保全措置が求められます。全国662施設あり、有料老人ホームに比べると数はかなり少ないです。

月額に含まれない費用はどのくらい見ておけばいいですか。

おむつ代、医療費、理美容代、レクリエーションの実費などが別に必要です。金額は状態によって大きく変わるため、施設に「入居中の方の平均的な実費はいくらか」を聞くのが早いです。

見学のときに一時金の話をどう切り出せばいいですか。

「初期償却率と償却期間を教えてください」「1年で退去した場合と3年で退去した場合の返金額を書面でいただけますか」の2つで足ります。遠慮する必要はありません。答えられないこと自体が、判断の材料になります。

契約を急かされています。

その場で決めないでください。重要事項説明書を持ち帰って読む時間は、必ず取れます。「部屋が埋まる」と言われても、条件を確認せずに数百万円を預ける方がはるかに大きな損失になります。判断に迷うときは、担当のケアマネジャーに契約書を見てもらってください。

親が施設に入ったあと、実家をどうするか

一時金の資金をどう作るかを考えるとき、実家の扱いが必ず出てきます。空き家のまま持ち続けると、固定資産税と管理の負担が続きます。売る前提でなくても、費用がどれくらいかかり続けるのかは知っておいてください。姉妹サイトの実家じまいナビで扱っています。

入居先の候補が、地域にいくつあるか

一時金のかからない特別養護老人ホームは、91市区町村に1つもありません。候補が少ない地域ほど、契約条件を比べる余地がなくなります。市区町村別の事業所数はこちらで検索できます。

在宅を続ける判断材料として夜間対応のない1,089市区町村も確認してください。認定前なら介護保険の申請の流れから。