02:14 — TUESDAY
1,089
の市区町村では、夜に来てもらえる介護保険のサービスが1つもありません(全国1,889のうち57.6%)
介護の相談窓口で「夜も見てもらえますか」と聞くと、たいてい「そういうサービスもありますよ」と返ってきます。それは全国の話であって、親が住んでいる市区町村の話ではありません。
この記事は、夜にだけ空いている穴の話です。まず、その穴に落ちる夜がどういう順番で進むのかを見てください。
その夜は、だいたいこの順番で進む
物音で目が覚める。空耳かもしれないと思って、一度そのまま横になる。
やはり気になって見に行くと、親が床にいる。意識はある。受け答えもできる。ただ、自分では起き上がれない。
抱き起こそうとして、持ち上がらないことに気づく。介助の姿勢を習っていない人間が、体重50kgの人を床から起こすのは、ほぼ無理です。
救急車を呼ぶかどうかで迷い始める。骨折しているかもしれないし、していないかもしれない。この判断ができる人が、この家にいない。
ケアマネジャーの携帯にかけようか考えて、やめる。深夜2時だから。そもそも「夜にかけていい番号」を渡されていないことに、このとき初めて気づく。
結局、救急車を呼ぶ。搬送。検査。骨折はなかった。
タクシーで家に戻る。親はベッドに戻ったが、こちらは一睡もしていない。
仕事。今日は休めない。そして今夜も、同じことが起きるかもしれない。
問題は、転んだことではない
この夜に起きた困りごとを分解すると、3つしかありません。持ち上げられない。判断できない。かけられる電話番号がない。どれも、人が一人来てくれれば片づきます。
介護保険には、そのための仕組みがちゃんとあります。夜間に訪問してくれるサービスが、制度上は3種類用意されています。
ただし、その3種類が、どれも存在しない市区町村が1,089あります。制度としてはあるのに、住んでいる場所にはない。これが夜の穴の正体です。
1,889の四角は、1,889の市区町村です
厚生労働省の公表データから、全国1,889市区町村について「夜に来てもらえる3サービスがいくつあるか」を数えました。四角1つが1つの市区町村です。多い順に上から並べています。
全体の4.2%
17.0%
21.2%
57.6%
出典:介護サービス情報公表システム(厚生労働省)/2026年6月末時点。3サービス=夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護。市区町村は1,889(政令市は行政区ごとに集計)。79+321+400+1,089=1,889。
あなたの県は、どのあたりか
全国では57.6%ですが、これは都道府県で大きく開きます。47都道府県すべてを、夜に来てもらえる3サービスが1つもない市区町村の割合が高い順に並べました。
縦の白い線が全国平均の57.6%。右端は「1つもない市区町村の数 / 県内の市区町村数」。47都道府県の合計は1,089 / 1,889で、全国の数字と一致します。
最も高いのは鳥取県の89.5%。19市町村のうち17に、夜に来てもらえるサービスが1つもありません。最も低いのは神奈川県の20.7%で、その差は4.3倍です。
並べると偏りがはっきりします。上位10県には、三大都市圏の府県が1つも入っていません。逆に下位10県のうち6つが三大都市圏です。そして47都道府県のうち32で、県内の半分以上の市区町村が空白になっています。
これは「地方が遅れている」という話ではありません。この記事の後半で書くとおり、夜のサービスは待機している人の人件費を人口規模で支える構造になっています。人口が少ないほど成り立ちにくい。つまり、子世代が遠くに住んでいて夜に助けを呼べる人が少ない地域ほど、空白になりやすい。
ここまでが、夜に起きることです。
ここからは、昼のうちにできることを書きます。
夜の3サービスは、それぞれ何なのか
先に、3つの中身を短く押さえます。名前が似ていて混乱しやすいのですが、できることも、どこにあるかも、まったく違います。
夜間対応型訪問介護
147事業所
94.0%の市区町村に1つもない
(ある市区町村は113)
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
1,375事業所
67.8%の市区町村に1つもない
(ある市区町村は609)
看護小規模多機能型居宅介護
1,141事業所
70.5%の市区町村に1つもない
(ある市区町村は557)
夜間対応型訪問介護
名前のとおり、夜だけのために設計された訪問介護です。決まった時間に回ってくる「定期巡回」と、呼べば来る「随時訪問」の両方がセットになっています。通報用の端末を貸してくれる事業所もあります。
ただ、これは全国に147事業所しかありません。1,889市区町村のうち、存在するのは113。94.0%の市区町村にはありません。「夜間対応型」という制度名を頼りに探すのは、現実的にはほぼ空振りになります。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
夜だけでなく24時間を通して、短時間の訪問を何度も繰り返す形のサービスです。看護師も関わるので、医療的なことも相談できます。3つの中では最も普及していて、609市区町村にあります。
月額の包括報酬なので、何回来てもらっても料金が変わらないという特徴があります。「1回いくら」を気にせず呼べるのは、夜にとっては大きい。ただし訪問介護など他のサービスと併用できない組み合わせがあるため、いま使っているサービスの組み替えが必要になります。
看護小規模多機能型居宅介護(看多機)
通い・泊まり・訪問・訪問看護を、1つの事業所がまとめて提供します。「今夜だけ泊まる」ができるのが、夜にとっての強みです。557市区町村にあります。
一方で、登録制で定員があり、空きがなければ待つことになります。また、ここに登録すると担当のケアマネジャーが看多機の事業所側に変わるため、今のケアマネジャーとは離れることになります。
3つとも、名前を知っていても親の市区町村にあるかどうかは調べないとわかりません。夜に来てもらえる3サービスがどれもない市区町村の一覧に1,089すべてを載せています。まずここに親の市区町村があるかどうかを見てください。
なぜ、夜だけが空白になるのか
ここには、はっきりした理由が2つあります。事業所の努力不足でも、地域の怠慢でもありません。制度の作りと、夜という時間帯の採算構造がそうさせています。
理由1:3つとも「地域密着型サービス」だから
夜間対応型訪問介護も、定期巡回も、看多機も、いずれも地域密着型サービスに分類されます。地域密着型は指定する権限が都道府県ではなく市区町村にあります。そして原則として、その市区町村の住民しか使えません。
つまり、市区町村が3年ごとの介護保険事業計画に「作る」と書いて公募しないかぎり、その街には1つも生まれません。隣の市にどれだけあっても、越えてきてはくれない。訪問介護(都道府県指定)がほぼ全国にあるのと対照的です。
理由2:夜は、呼ばれなくても人件費が出ていく
夜に人を出すには、呼び出しに備えて待機している人が要ります。その人の人件費は、1件も呼ばれない夜でも発生します。訪問1回ごとに報酬が立つ昼のサービスと、採算の構造がまったく違います。
定期巡回は月額の包括報酬なので、登録している利用者が一定数いないと成り立ちません。夜間対応型も同じで、通報端末と待機体制を維持するだけの規模が要ります。結果として、人口規模の小さい市町村では事業として成立しません。
ここに逆転が起きています。高齢化率が高く、子世代が遠くに住んでいて、夜に助けを呼べる人が少ない地域ほど、人口規模が小さく、夜間サービスが成立しにくい。必要度が高い地域ほど、選択肢が少なくなります。
だからこの空白は、探し方を変えれば埋まる種類のものではありません。「無いものを探し続ける」のをやめて、別の受け皿に切り替える判断が要ります。それをこの記事の後半でやります。
なお、作るかどうかを決めているのは市区町村なので、意見を言う先も市区町村です。介護保険事業計画は3年ごとに見直され、多くの自治体がパブリックコメントを募集しています。すぐ効く話ではありませんが、言う先が存在することは知っておいてください。
「24時間対応」という言葉が意味していること
ここが、この記事でいちばん誤解されているところです。
訪問介護の事業所が「24時間対応しています」と言うとき、その多くは夜間の訪問サービスを提供しているという意味ではありません。たいていは次のどれかです。
| 「24時間対応」の中身 | 夜中に人は来るか |
|---|---|
| 電話は24時間つながる(オンコール体制) | 来ない。相談に乗ってもらえるだけ |
| 緊急時訪問介護加算がある | 来ることがある。ただしケアプランにない訪問を臨時に行う加算で、呼べば必ず来る契約ではない |
| 夜間対応型訪問介護の指定がある | 来る。これが本来の「夜に来る」 |
| 定期巡回・随時対応型の指定がある | 来る |
確認する言葉は「24時間対応ですか」ではありません。次のように聞いてください。
「夜中に呼んだら、人が来ますか。来るとしたら何分くらいですか。その番号を今もらえますか。」
この3つに具体的な答えが返ってくれば、その事業所は夜に使えます。返ってこなければ、夜は使えません。悪気があるわけではなく、制度上できないだけです。
それから、もう1つ大事なこと。訪問介護そのものは、35,111事業所あって、存在しない市区町村は113しかありません。つまり昼のヘルパーは、ほぼどこにでもいます。足りないのは「昼の担い手」ではなく「夜の担い手」だけ、というのが正確な理解です。訪問介護が見つからないときの探し方も参考にしてください。
空白は57.6%。しかし「3つそろっている」のは4.2%しかありません。
もう一度、最初の図を思い出してください。1つもない1,089にばかり目が行きますが、3種類そろっているのは79市区町村だけです。2種類が321、1種類が400。つまり「ある」側の800市区町村も、その大半は選択肢が1つか2つしかない。これは1,089の問題ではなく、1,810の問題です。
空白の57.6%で、夜を越える4つの受け皿
ここからが本題です。制度の夜間サービスが親の市区町村にない場合、夜を越える方法は4つあります。どれか1つを選ぶのではなく、組み合わせて「起きたときに詰まない状態」を作ります。
1いま使っている事業所の「随時対応」を確認する
- できること
- 緊急時訪問介護加算のある事業所なら、臨時の訪問に来てもらえる場合があります。費用はかからず、今日電話1本で確認できます。
- できないこと
- 呼べば必ず来る契約ではありません。人手が空いていなければ来られません。深夜帯を最初から対象外にしている事業所もあります。
- お金
- 加算分のみ。1回あたり数百円程度の自己負担(負担割合による)。
- 順番
- まずここ。これを確認しないまま他を探すと、すでにある選択肢を見落とします。
2保険外(自費)の訪問介護を、夜だけ押さえる
- できること
- 介護保険のサービスではないので、要介護度もケアプランも関係なく、時間も内容も自由に頼めます。介護保険の事業所指定に縛られないため、夜間サービスがゼロの市区町村でも成立しうるのが、この選択肢の最大の意味です。付き添い、見守り、話し相手、通院、深夜の呼び出しにも対応できます。
- できないこと
- 医療行為はできません。全額自己負担なので、毎晩使うと家計が持ちません。地方では登録ヘルパーの数が少なく、深夜の依頼が埋まらないこともあります。
- お金
- 1時間あたりおおむね3,000〜5,000円。深夜帯は割増になるのが一般的です。事業者によって差が大きいので、「深夜の単価」と「最低利用時間」の2つを必ず確認してください。
- 向く使い方
- 毎晩ではなく、手術後の数日、退院直後の1週間、家族が出張する夜など、期間を区切って使う。ここに絞ると費用が現実的になります。
3夜を「家の外」で越える
- できること
- ショートステイ、小規模多機能型居宅介護や看多機の泊まりを使い、その夜だけ家にいない状態を作ります。人がいる場所で寝てもらうのが、いちばん確実です。
- できないこと
- 当日の予約はまず取れません。連続利用にも上限があります(要介護認定の有効期間のおおむね半数を超えない等の目安があり、運用は市区町村で異なります)。環境が変わると混乱が強く出る人もいます。
- お金
- 介護保険の自己負担に加えて、食費と滞在費は保険給付の対象外です。ただし所得と預貯金の要件を満たせば負担限度額認定で軽減されます(介護のお金)。
- 順番
- 倒れてから探すと間に合いません。使う予定がなくても、先に契約だけ済ませておくのが正解です。
4「起きたこと」を知る仕組みを入れる
- できること
- センサーやカメラで、離床・転倒・部屋の異常を知らせてもらいます。人は来ませんが、気づくまでの時間が数時間から数分に縮みます。冒頭の夜で言えば、02:14の物音を聞き逃していたら朝まで気づかなかった、という事態を防げます。
- できないこと
- 起こすことも、判断することもできません。これは受け皿ではなく、受け皿を呼ぶための合図です。単独では解決になりません。
- お金
- 買い切りとレンタルの両方があります。介護保険の福祉用具貸与の対象になるもの(離床センサー等)と、対象外の見守り機器があるので、ケアマネジャーに「保険で借りられるものはどれか」を先に聞いてください。
- 向く使い方
- 別居していて夜の様子がまったくわからない場合、まずこれを入れて1〜2週間の記録を取る。実際に夜に何が起きているかがわかってから、1〜3を決めると外しません。
4つを比べる
4つを1つの表にします。「人が来るか」と「あらかじめ手配が要るか」の2列が、夜の実務では決定的です。
| 受け皿 | 夜に人が来るか | 事前手配 | 費用の出方 |
|---|---|---|---|
| 1. 今の事業所の随時対応 | 来ることがある | 電話で確認だけ | 加算分のみ |
| 2. 保険外の訪問介護 | 来る | 登録が必要 | 全額自己負担・時間単価 |
| 3. 泊まりで越える | 行く先に人がいる | 契約と予約が必要 | 食費・滞在費は給付外 |
| 4. 見守り機器 | 来ない | 設置が必要 | 買い切りかレンタル |
並べてみると、1と4は今日から始められて、2と3は先に手続きが要るとわかります。だから順番は決まります。今日やるのは1と4、今月やるのは2と3です。
お金は、どこで増えるか
金額は地域と事業者で幅が大きいので、「いくらか」より先に「どこにお金がかかるか」を押さえたほうが判断を間違えません。
| 受け皿 | 何にお金がかかるか | 介護保険 | 使える軽減 |
|---|---|---|---|
| 1. 随時対応 | 緊急時訪問介護加算 | 効く | 高額介護サービス費 |
| 2. 保険外の訪問介護 | 時間単価+深夜割増+交通費 | 効かない(全額自己負担) | なし |
| 3. 泊まりで越える | 介護費は保険。食費と滞在費は給付外 | 一部 | 負担限度額認定 |
| 4. 見守り機器 | 本体またはレンタル料+通信費 | 品目による | 福祉用具貸与(対象品のみ) |
1か月の自己負担が所得に応じた上限を超えたときは、超えた分が戻る高額介護サービス費があります。申請は最初の1回だけで、以後は自動で振り込まれます。ただし保険外(2番)はこの計算に入りません。保険外を厚くするほど、戻ってくる仕組みから外れていきます。
だから保険外は「毎晩」ではなく「期間を区切って」が原則になります。詳しくは介護のお金にまとめています。
今週やること
夜の備えは、5つの電話と1つの確認で形になります。
- 親の市区町村が1,089に入っているかを見る。夜に来てもらえる3サービスがどれもない市区町村の一覧で確認します。入っていなければ、3つのうちどれがあるかを地域包括支援センターに聞いてください。
- いまの訪問介護事業所に電話して、3つ聞く。「夜中に呼んだら人が来ますか」「来るとしたら何分くらいですか」「その番号を今もらえますか」。答えをメモして、冷蔵庫に貼ってください。
- ケアマネジャーに「夜に連絡していい番号」を確認する。事業所によっては当番制の携帯があります。渡されていないだけ、という場合がかなりあります。
- ショートステイを1か所、使う予定がなくても契約しておく。倒れてから探すと間に合いません。契約だけなら費用は発生しません。
- 保険外の訪問介護を1社だけ登録しておく。使わなくても構いません。夜中に「今から探す」のが一番つらいので、探す作業を昼のうちに終わらせておくのが目的です。
5つとも、親を説得する必要がありません。家族の側だけで完結します。親に切り出しにくいときは、ここまでを先に済ませてください。
よくある質問
夜に人が来ないなら、施設に入れるしかないということですか。
そうとは限りません。夜の困りごとは「持ち上げられない・判断できない・電話できない」の3つに分解できるので、泊まりと保険外訪問と見守り機器の組み合わせで越えられる家庭は多くあります。ただし転倒が週に何度も起きる段階になると、在宅で支えきれなくなることはあります。判断の目安は在宅介護の限界にまとめています。
1,089に入っている市区町村では、隣の市のサービスを使えませんか。
夜間対応型訪問介護と定期巡回、看多機はいずれも地域密着型サービスで、原則としてその市区町村の住民が対象です。市区町村どうしの同意があれば例外的に使えることもあるので、地域包括支援センターに「隣接市の事業所を使えるか」を直接聞いてください。ただし期待しすぎないほうがよく、保険外は住所の制約を受けません。
深夜に救急車を呼ぶのは、大げさでしょうか。
頭を打っている、意識がはっきりしない、強い痛みを訴える、出血している、いつもと様子が明らかに違う。このどれかがあれば呼んでください。判断に迷うときは、救急安心センター事業(#7119)が使える地域もあります。使えるかどうかは地域によって違うので、対応しているかを昼のうちに調べておくと、夜に迷いません。
親が「夜に他人が家に入るのは嫌だ」と言います。
よくあることです。その場合は4(見守り機器)から入ってください。人が入らないので反対されにくく、しかも「実際に夜に何が起きているか」の記録が取れます。記録が出てくると、本人も納得しやすくなります。
このデータはどこから来ていますか。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムに掲載されている全国の事業所データ(2026年6月末時点)を、マモリアが市区町村単位で集計したものです。定員欄は実測で約半数が0または空欄だったため使っていません。集計方法はデータについてに記載しています。