2018年4月14日、「笹川平和財団ビル11階 国際会議場」にて、一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会の設立3周年シンポジウムが開かれました。
今回はこちらのシンポジウムをご紹介します。
エンドオブライフ・ケア協会の3年間の振り返りと活動報告
会場に入ると、各地域での取り組みが紹介されるブースのエリアがあり、早速賑わいを見せていました。各地域にて創意工夫がなされており、参加者の方が立ち止まり興味深そうに内容を見ている姿が印象的でした。
シンポジウムは、田中伸男氏(公益財団法人:笹川平和財団会長)のあいさつから始まりました。冗談も交えながら、超高齢少子多死時代に向けて、「アジアとの経験共有の一助にしてほしい」と語られており会場全体が和やかな雰囲気に包まれます。
続いて、小澤竹俊氏(当協会理事:めぐみ在宅クリニック院長)が、エンドオブライフ・ケア(ELC)協会の想いや活動報告をされていました。
国内の状況から話題は始まります。現在の日本は高齢人口の増加・若者人口の減少により、人口動態が大きく変化しています。
今後は「おだやか」がキーワードになってくるのではないでしょうか。
解決できる苦しみは当然取り除きながらも、残り続ける解決困難な苦しみに対しては、その苦しみを通して自分の支えに気づくことが、たとえ死という大きな苦しみに直面したとしても、「おだやか」に過ごしていく可能性につながるとおっしゃっていました。社会資源が限られるなか、一人ひとりがレジリエンスを強めていくことや、自分の苦しみをわかってくれる誰かの存在が大切であり、それは一部の専門家だけにしかできないことではなく、子どもからお年寄りまで、皆で考えていくテーマであることを強調されていました。
<具体的活動内容>
・援助者(医療、介護等)向け研修 二日間の養成講座
:受講者数 2,600名 開催数 45回(横須賀市医師会主催、富山大学主催含む)
・地域での継続学習会開催支援
認定者の継続的な成長をサポートするコミュニティづくりを全国各地で展開
・40−50代ビジネスパーソン向け研修
(親のこれからと共に自身の働き方・生き方を考える)
介護離職の課題解決に向けた研修
・市民(小中高生、医学生・看護学生、地域住民等)向け”いのちの授業”
千葉宏毅氏(北里大学医学部教育研究部門・助教)より、研修受講者のその後の行動変容に関する調査の結果と考察が報告されました。
驚いたのはその調査方法です。医療・介護従事者を対象に、研修前後で患者や患者家族との会話を録音し、どんな言葉を話したかを細かくピックアップして分析しています。
人生の最終段階を迎える人と関わる自信がどう向上したかについて、主観的な評価だけではなく、研修での学習目標と紐づく形で、苦しみ、支え、習得スキルなど多くの項目を踏まえた客観的な会話の質の変化に関する考察がなされていました。
また、患者様・ご家族が研修受講者との会話をどのように感じたのかについても細かく分析されており、客観的数値から研修の効果や実績について述べられていました。
分析は今後も継続的に続けていかれるそうで、課題としては母数となる被験者がさらに必要との見解を示されていました。
講演1 誰があなたをみてくれるのか?〜介護職と成年後見制度〜
小野沢滋氏(協会理事:みその生活支援クリニック院長)は社会の状況について、アジア全体を含めた人口動態、成年後見制度、訪問介護員の不足の三つの視点から述べられていました。
興味深かったのは、「日本は高齢社会先進国」「人材不足の協力をアジアに!」などと言われていますが、ベトナムなどの一部のアジア諸国ではすでに高齢化が進行しているという点です。まず日本で高齢化の手立てを確立し、アジア諸国に輸出するなどといった考えを持たれている企業や団体が多い中、この分析は、アジアとの「高齢化」の関わり方を考え直さざるを得ない内容でした。
また、在宅においての訪問介護員の常勤職員数が、05年の約17万8千人から、15年の約7万8千人へ激減しているということです。報酬の問題点にも言及され、訪問先から訪問先への移動に対して一切対価がなく、難易度が高いとされている家事援助についての報酬が、身体介助に比べて報酬が低いことなど、構造的な問題点も会場の参加者に分かりやすくお話されていました。
「安全」と「尊厳」を両立させることを考えるのではなく、その意味をしっかりと考えていかなければいかないと痛感させられました。
講演2 医療・介護職が”演劇”で伝えるということ
長尾和宏氏(協会理事:長尾クリニック院長)は関西を中心に、在宅医療・介護のあり方と現状について市民に伝えるための演劇活動について紹介されていました。
演劇は新喜劇風で「笑い」を交えながら、在宅医療・介護の現状の問題点を的確に、わかりやすく盛り込まれています。ストーリーは、現状の問題を関係者全員で解決しながら、死を目前にした本人や家族が「おだやかに」最期を迎えるといった内容でした。
映像の中では、練習やリハーサル風景も流れ、医療・介護の様々な役職の方々が真剣な眼差しで取り組まれている様子も観られました。
講演3 セオリー・オブ・チェンジと社会的インパクト
田辺大氏(一般社団法人セオリー・オブ・チェンジ・ジャパン共同代表)はELC活動が世の中にどのようなインパクトをもたらすのか、についてお話されていました。
特に、研修修了者やELCメンバーが「ファーストフォロワー/アーリーアダプター」となり、地域包括ケアにインパクトをもたらす、と力強く語られていました。
座談会「看取り援助:苦手意識から関わる自信へ、そして地域への広がり」
まず、各地区のELCのメンバー3名の経験談から始まります。ELC近畿/東住吉の津野采子さん(ハート介護サービス東住吉 所長/介護福祉士)は、大阪の明るさ全開でお話されていました。
亡くなられたご利用者様との関わりの中で、津野さんご自身が何も出来ず後悔された経験を元に「苦手意識から関わる自信」への心境の変化をお話されていました。
津野さんの介護に対する真摯な想いが存分に伝わり、会場全体が一段と明るくなるお話でした。
続いて、ELC東京の相田里香さん(青い鳥 所長:主任介護支援専門員・看護師)は、周囲のケアマネージャー50人に行ったアンケート調査の内容を話されました。
相田さん自身も医療介護職として働く中での課題意識から調査を行われたようです。
どうすればケアマネージャーが、利用者様に自信を持って関わり、利用者様の苦しみに寄り添うことができるのかをお話されていました。
ケアマネージャーの多くが、自分に自信がなく、利用者様との関わり方に苦労されているということは、とても意外なものだと感じました。
ELC岩手の高橋美保さん(ホームケアクリニックえん 看護部長/緩和ケア認定看護師)は、死を目前にした利用者様との関わりの中で、自分自身の状況との折り合いがつかず、誰も信じられなくなった方と親身に関わられた経験をお話されました。
そうした経験から、医療と介護だけでの支援に限界があると感じ、「ケアカフェ北上」を通じた活動をされています。高齢者だけに囚われず、子供から高齢者まで幅広く活動されていることをお話されていました。
ここから講演された方に小野沢氏・長尾氏が加わり、会場の参加者から質問や感想を投げかけるといった流れで進んでいきました。
シンポジウム終了後は、ご登壇された方に挨拶や質問を求め、多くの参加者が列を作っていました。
今回のシンポジウムでは、日本が抱えている現状を大きく包括的に捉え、その中でELCの目指す先「死に直面する本人・家族・援助者(特に医療や介護の専門職等)が、いずれもおだやかでいること」に限らず、「社会全体として、たとえ社会資源が限られていたとしても、市民として、地域として、おだやかであること」に向かって、全国各地での研修や勉強会、様々なアプローチからのイベントなど、誠実に、想いを繋ぎながら活動をされていることが分かりました。
それぞれが違う立場で「同じ方向」に向かって活動されている姿や、参加者の積極的な意見交換の姿を拝見し、一人ひとりの想いや行動を集めていけば社会を変えて行く大きな力になる事を確信しました。
執筆者
執筆者:GCストーリー株式会社三宅祐也
編集:GCストーリー株式会社佐藤政也
画像提供::一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会
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