故人との最後のお別れである「葬儀」が年々多様化しています。生前葬、家族葬、自由葬、直葬など価値観の多様化に伴い「自分らしい最後」も色々な選択肢が出てきています。
今回は、単に簡素化を目的とせず、形式や時間に縛られず故人とゆっくりお別れをする「自宅葬」を提案する、株式会社鎌倉自宅葬儀社の馬場翔一郎さんにお話を伺いました。
六畳一間でもできる。最後だからこそ、自宅で送る
―馬場さんはなぜ、葬儀業界に入られたのですか?
高校卒業後、ドキュメンタリーに興味があったので、報道写真を撮りたくて、写真の専門学校に通っていました。
報道写真だけでは生計が立たないのと、視野を広げるために仕事を探しているときに「葬儀の写真を撮る人がいないな。その人の最後の思い出を、写真に残したい」と思い立ちました。
「縁起でもない」との考えもあるかもしれませんが、最近は葬儀でプロのカメラマンに写真を撮ってもらうのが当たり前になっています。
まず葬儀業界専門の人材派遣に登録して葬儀だけではなく、お花、テント、お料理など、葬儀に付随する派遣先を紹介していただき、色々な業種や角度から、業界を見ながら経験を重ね、知見を溜めていきました。
「自分なりに良いものができるのではないか?」と思い始めた時に請負業で独立する機会をいただき、更に経験を積んでから、葬儀事業を開始しました。
―葬儀場での葬送が主流の中で「自宅葬」に特化するキッカケは何だったのですか?
自宅葬の事業は、2013年3月に祖父を亡くしたことがキッカケに繋がりました。
校長先生だった温厚で人格者の祖父は、闘病生活が始まるとできないことが増えて、調子が悪くてイライラし、別人のようになっていきました。
「仕方がない」と思いつつ、病気で痛そうな表情の祖父に何もできず、入院生活になってからは「退院して元気になったら、また自宅で会えばいい」と、お見舞いに行かず、結局看取ることもできませんでした。
亡くなった後、私が葬儀を担当することが決まり、生前「自宅に帰りたい」と言っていた祖父の気持ちを汲んで、まずは遺体を自宅に帰しました。
火葬場の混雑で1週間ほどの待機期間があり、ヘアメイクを入れて、毎日ドライアイスを交換して過ごす間、祖父のほんとうに身近な方たちが弔問に来てくださいました。
私たちが知らなかった話をゆっくり聴かせていただいてから、後日改めて葬儀で皆さんに送っていただいたことが、とても良かったのです。
祖父の葬儀には多くの方をお招きする必要があり、自宅での駐車場や待機テントの用意が難しく、式場で執り行いました。
葬儀が終わるまでは自分が担当してバタバタしていたこともあり、亡くなった実感を持てずに、泣くことができませんでした。
葬儀を終えた1週間後、家族でお茶をしていた時に、祖父の最後の言葉を聴きました。
母と姉が最後にお見舞いに行って部屋を出ようとした時に、当時少し大変な環境にいた姉の背中に向かって「俺も頑張るから、お前も頑張れ!」と叫んだらしいのです。
祖父自身が辛い中、姉を思って励ましの言葉を贈った祖父の言葉に涙が溢れて、祖父が亡くなったことや、生きる意味を与えてもらったことを感じて、泣けることの大切さを体感しました。
一般の式場では、亡くなってすぐ通夜・葬儀を行うのが通例で、故人と相対してゆっくり過ごすことはできにくいのです。
これまで手配させて頂いた葬儀でも、ご遺族が各所に気を使ってバタバタしているうちに終わってしまって、偲びきれないことがありました。
大切な人の死を理解して飲み込むタイミングは人それぞれなので、極力その人を思える葬儀を提供するために、自宅葬はいいなぁ。と当時はまだぼんやりとでしたが、感じたことがキッカケになりました。
―「鎌倉自宅葬儀社」はどのようにして生まれたのでしょうか?
なぜ人は泣くのかを考えていた時、偶然「涙活(るいかつ)」という、涙を能動的に流して心のデトックス(浄化)を図る活動を知りました。
最初は怪しく感じて「絶対に泣くものか」と思って参加したら、韓流歌手Kさんの『ハラボジの手紙』というミュージックビデオを観賞して大泣きしました。
おばあさんが先に亡くなって、遺されたおじいさんが天国に毎日手紙を書く、というストーリーです。
「心が和らぐ力があるスゴイ活動だ!」と、活動メンバーになると、プロデューサーの寺井広樹さんから「いま泣語家(なくごか)というキャラクターを作っているから、やってくれないか」と打診されました。
泣語家は、泣ける話に特化した人情噺をして、自分も泣いてお客さんにも泣いてもらうキャラクターです。
各種メディアに取り上げていただく中、ある雑誌で「自宅葬をすすめていきたい。定型ではない、ハートフルな葬儀を提供したい」と、葬儀屋の側面を掲載いただくと、北海道や沖縄からもお問い合せをいただいたのです。
「自宅に帰して、ゆっくり見送りたい」というニーズは、全国的にあるに違いない。と感じました。
全国のニーズに対応できる良いサービスをつくりたいと考えた時、泣語家として参加した涙活のコラボイベントで出会った、面白法人カヤック代表の柳澤を思い出しました。
カヤックは、鎌倉に拠点を構えて『鎌倉資本主義』という構想を掲げています。
地域に眠っている、お金ではない、あたたかな価値を指標化し、市民・行政・企業、皆で一緒に伸ばしていけば、世の中がもっと豊かになる。
新しい資本主義の考えで、鎌倉で働く人向けの社員食堂や保育園、花火大会の復活など、地域に貢献する様々な事業を展開しています。
「葬儀業界とは全く関係のないところで、新しくやりたい!」と、企画書を作り、蕎麦屋で披露した1時間のプレゼンを「面白い!」と言っていただいて『鎌倉自宅葬儀社』という社名まで、その日のうちに決まりました。
そこから始動して2016年8月に会社を起ち上げて今に至ります。
ゆっくりと時間をかけてお別れできる葬儀
―通常の葬儀より、ゆっくり故人との時間を取るのですよね。どんな方が“自宅葬”を選ぶのですか?
お問合せの6割は50~80代で、ご自分の葬儀を自宅葬にしたいと考えている方、4割弱はご家族で、大切な方を亡くしたあと、家に帰してあげたい方が占めています。
鎌倉自宅葬儀社の葬儀は“時間をかける”ことを大切にしています。
葬儀場の場合、どうしても決められた時間の中で2~3日で執り行う事が多いですが、ご遺族の理解を得られれば最低でも5日間はかけるご提案をしています。
例えば、亡くなったばかりの精神状況の中で、一気に書類を見せられて、祭壇、棺、お花、日程をどうするか、と言われても、どれが良いか分からないし、選ぶことも難しいですよね。
亡くなった1日目は、何もしない状況を作ります。
1日で冷静になることは出来ないかもしれませんけれど、なるべく落ち着いて考えられる状況でお話をして、どうするかを決めていただけるようにしたいのです。
ご提案するセットプランは必要最低限にしています。
ただ安価、ということではなく、棺ひとつでもきちんと思いがある生産者さんや職人さん、間伐材を使用した、ぬくもりを感じられるようなものを用意していて、それで充分だと思っています。
希望があれば、彩色や彫りの入ったものもご用意しますけれど、そこにお金をかけるなら、例えばヘアメイクなど故人にしてあげられることにお金をかけてあげた方が良いかもしれません。
葬儀というと、どうしても“しなければならない、してはいけない“という印象があるようです。
ご遺族がどうしたいか、時間をかけてお話を伺うと「こういうことが好きだった、こんな花が好きだった」と世間話にこそ、葬儀に反映できることが出てきます。
―自宅葬には、どのような利点があるのでしょうか?
自宅葬に向けて、自宅を整理すると、色々な思い出が、品物と一緒に出てきます。
出てきた結婚写真を飾ったり、故人が好きだったものを買ってきたり、自宅だからこそ、誰にも気を使うことなく、その方の人柄を間近に感じられる時間を過ごすことができるので、ご遺族もゆっくり考えることができます。
葬儀場は、通夜・告別式の時間帯が、式場のサイクルで大体18時前後と決まっています。
自宅葬の場合、決められた時間の中で急かされることなく、焦らず自由なスケジュールで開催できます。
お寺さんの都合が合えば、例えば15時に通夜をして、16時に終えてから皆さんでお食事をして、ゆっくり過ごすことも可能です。
遺族や身近な方だけで見送りたいけれど、一般の方とのお別れの場も必要な場合には、遺族単位で儀式を済ませた後に皆さんに来ていただく、人数が多ければ別の場を設けるなど、思い出に浸れる式をコーディネートします。
―形式や時間に縛られない“オリジナル”は、自宅葬ならではかもしれませんね。
“遺族でやる”から家族葬、ではなくて“遺族でつくり上げる“家族葬、を広めていきたいです。
私たちが決まりきったものを提供するのではなく、ご遺族の“やりたい”を「じゃあ、そうしましょう!」と実現するような葬儀社であることを大切にしています。
―自宅葬で、大変な点についても教えてください。
参列者の方を多数お招きするような、一般葬を自宅でやろうとすると大変です。
待機場所だけでも、季節によって暑い、寒いがありますし、駐車場の確保やご近所の調整も、難しい場合が多いです。
その場合、何から何までご自宅でやらず、基本的には自宅で安置して、葬儀は式場でやる、など、状況に応じてご提案しています。
また、片づけや弔問客の対応・調整が大変な場合もあるかもしれません。
家具の移動などは私たちもお手伝いしますし、後回しにしてしまいがちな整理ができる利点もあります。
―何日も自宅で安置するとなると、維持・管理の心配はないのでしょうか。
特に夏場は多くの方が心配されますが、今はクーラーもありますし、私たち自宅葬コンシェルジュが毎日ドライアイスを交換して様子を見に行くので、何も心配することはありません。
状況が変わってしまったら、専門の方にお直ししてもらえば良いので、それほど恐れることはありません。
―マンションやアパート住まいの方でも、自宅葬はできるのですか?
お部屋の広さに関しては、6畳一間でも可能です。
大切なことは、管理人さんや近隣住民の方への十分な配慮です。
エレベーターがなければ、私たちが故人を抱えて、階段からお部屋にお連れすることもできます。
難しいと感じることは、相談していただければ、できないことはほとんどありません。
理想の“最後の時間”をつくる
―自宅葬サービスを提供する中で、印象的な出来事はありましたか?
どの式も印象的なのですが、ダンスの先生だった方の葬儀は、ご遺族の手づくりで、とても自由な式だったことが印象に残っています。
お孫さんがトロンボーン奏者で、在宅介護をしていた娘さんから「母はオーケストラ公演を聴きに行くことを毎回とても楽しみにしていたので、葬儀の際も演奏を聴かせてあげたい」とリクエストをいただきました。
通常の葬儀は、火葬場の予約状況やお寺さんの希望で葬儀日程が決まるのですが、各所にご理解を得て、お孫さんの日程に合わせて、日取りを決めました。
葬儀までの1週間は、リビングにお花のオブジェを飾って、ご近所さんや教え子の方たちをお招きして、思い出話をしたり、皆さんで持ち寄ったものを棺に入れたりして、お別れの時を過ごしていただきました。
飼っていた猫が棺の中に入って休んでいたりもして、ペットも遺族の一員として、一緒に最後のお別れをしてくれているようでした。
これも自宅葬の醍醐味ですね。
服装は普段通りの平服にして、お食事は、故人が毎年お節料理を頼んで懇意にしていた仕出し屋さんへお願いしました。
お通夜でお孫さんがトロンボーンを演奏し、ゆっくりお食事をした翌日に、告別式を執り行いました。
お孫さんたちが幼い時にベランダで撮影した写真に似せて、参列者の方たちと写真を撮ったりもしました。
式の後に「焦ることなく、ほんとうにゆっくり見送ることができた」と仰っていただいて嬉しかったです。
葬送が生活の一部に組み込まれているようで「この仕事を起ち上げて良かった」と感じた式でした。
―馬場さんが大切にしている考え方を教えてください。
まずは、私から提案しない、仕切らないことです。
キーワードとしては「偲ぶ」を1つのテーマにしています。
「偲ぶ」は“人を思う”と書きます。いかにその人を思って葬儀ができるか。
「しなければならない、してはいけない」ではなく「したいこと」を、いかに葬儀の中に取り入れていくかを、大切にしています。
ムダ話を大切にして、決してビジネスライクにはやりません。
ご遺族には「自分たちでやった」という思いを大切にしてほしいので、参加してもらって、ご自分たちで“つくっている”と感じていただけるサポートをしていきたいです。
ご遺族の願いや要望は、話すことによって落ち着くし、もし実現できないことだったとしても、それを理解した上でお送りすることが重要なのだと思います。
汲み取れていると言うにはおこがましいですが、葬儀にも主体的に関わっていただきます。
―今後、どのような自宅葬を広げていきたいとお考えですか?
私としては今後、在宅介護が推進される中で、在宅での看取り、自宅葬の流れと、病院で亡くなった方たちが自宅に帰ることができる流れを作りたいと考えています。
生前からその方の人柄や状況を理解した上で準備した方が、良い葬儀ができると思うのです。
2017年11月に、新潟自宅葬儀社もできました。私自身は関東圏ならどこへでも行っています。
今後も、ご家族が納得して、誰に急かされることもなく自分たちのペースで故人をおくり出す自宅葬で、理想の“最後の時間”をつくる活動を全国に広げていきます。
また、故人にとっては自宅である介護施設や老人ホームにも、自宅葬を広げていきたいです。
ある日突然、よく顔をあわせていた方が亡くなってそれきり、ではなく、共に暮らした方たちで見送れたら良いと思っています。
専門家に任せるべき部分を協力し合えば、介護・施設従事者の方が葬儀を執り行うことは可能ですので、施設で看取り・葬送ができる形を作っていきたいです。
組織概要
鎌倉自宅葬儀社HP:
https://kamakura-jitakusou.com/
新潟自宅葬儀社HP:
https://niigata-jitakusou.com/
面白法人カヤック(株式会社カヤック) HP:
https://www.kayac.com/
参考サイト
鎌倉資本主義特設サイト:
https://kamakura-capitalism.jp/
涙活HP:
https://www.ruikatsu.com/
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
編集:GCストーリー株式会社 佐藤
画像提供:鎌倉自宅葬儀社
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