その人の“歴史が垣間見える瞬間”を歌にする
―お年寄りの歴史を歌にしているとのこと、具体的な活動内容を教えてください。
今は香川県の特別養護老人ホームで介護職員として働きながら、医療・福祉イベントを中心にライブ活動しています。
歌は、介護現場のお年寄りの歴史やエピソードに発想を得て、作詞・作曲をしています。
香川県内だけでなく、大阪・東京などでも不定期で演奏をさせていただいています。
昨年11月から県内のバーで、介護ご家族や介護に従事する方たちをゲストにお招きして、その人たちを紐解いていく自主企画ライブ『歌で紐解くあなたのアナザーストーリー』を開催しています。
ゲストの今の思いや困りごとなど、その人の“いま”の状態を引き出しつつ、ホワイトボードに書き出していって、皆さんと一緒に、その人の歴史から今を歌にして演奏します。
―ゲストの歴史を紐解く、というのは面白い試みですね。
例えば、前回歴史を紐解いたゲストは介護ご家族でした。
「今後、自分が働けなくなったら、施設入所している祖母のお金をどう工面したら良いのか」と不安をお持ちでしたので、会場に来てくださった地域の行政の方に、私から質問させていただきました。
小さなバーなので、お客様同士の距離感が近く輪が広がりやすいです。
発信側と受信側、両者がお互いに質問することで、全体に平等な空気感が生まれています。
一方的に聴くだけでなく、様々な双方向のコミュニケーションが生まれていく可能性があります。
前回のライブでは、休憩時間等に、質問や会話が周りの方にもどんどん派生していって、最後に皆さんが同じテーマを基に、考えたり疑問を持てるような場になりました。
―お年寄りを主人公にした歌づくりのキッカケをお聞かせください。
介護するお仕事の日々にその人の“歴史が垣間見える瞬間”があります。
「すごい!そんな時代を生きてきた人なのだ」と、とても心を打たれて、その経験や気持ちは何なのだろう?と感じる場面があったことがキッカケです。
今も、そんな瞬間に曲を作りたくなります。
戦中・戦後のお話は、私自身が全く体験したことのない、凄まじい状況です。
そんな中を生きてきたことを、淡々と話す姿に凄みを感じると同時に、心を大きく動かされて「これを歌で表現したい」と思いました。
お年寄りさんの経験は十人十色で、積極的に戦争の話をする方はいません。あまり思い出したくないのでしょうね。
認知症の方の場合、環境などによってフラッシュバックする瞬間があります。
例えば狭い空間で、防空壕にいた時のことを思い出して言葉や行動が出ることがあって、戦争の体験が垣間見える瞬間があるのです。
今まさに起きていることのようにお話をされるので「どんな感覚なのだろうか?」と思います。
介護側からは問題行動に見えることもありますが、フラッシュバックしてしまうのは、どうしようもないところです。
「この人の経験や気持ちは何なのだろう?」と思うと、曲を作りたくなります。
現場から生まれる、聴く人の思いに寄り添う歌
―介護と歌の両立は、ご苦労も多いのではありませんか?
介護職員はパート勤務で、皆さんが想像するような両立を私自身が出来ているかは分からないのですが、介護も歌も好きで、バランスが取れていることが自分の中では大事です。
一点集中型の性格に、自分でしんどくなることが多かったのですが、2つのバランスの兼ね合いを図りながら、試行錯誤する中で視野が広がって、現在は精神的にとても楽です。
私は今と同じ施設で正社員として3年間働いて、歌との両立が難しくなって1度仕事を辞めて、歌に集中しました。
この経験が、とても大きく、今の両立の仕方もありだと思えたことも1つありますし、一旦離れることで、介護の楽しさを実感するところもあって、やっぱり自分に合う仕事だと思えました。
とても優しい先輩方のお陰で「同じ場所に戻りたい」と思えて、実際に戻ることができました。
今後も、どうにか続けていけるようにできたらいいな、と思っています。
介護職復帰を決めたキッカケは、2015年のりんご音楽祭のオーディション企画「RINGOOO A GO-GO」への出演です。
イベント主催者の方は、数か月かけて全国の予選会場を周って、1人1人の出演者に核心を突いたアドバイスをくれる方でした。
「視点はとても面白いけど、今は現場で働いてないのですよね」と素朴な疑問を投げかけられました。
私自身、現場でお年寄りさんの話を直接聴きたいと思っていたので、この言葉が、再びバランスが取れなくなるような働き方ではなく、自分に合う音楽と介護の両立のカタチを作るキッカケになったのです。
―代表曲『ただいま、さよなら』に込めた思いをお聞かせください。
祖母の三回忌のエピソードを基に作った曲です。
家族みんなで食事をしている時、たまたま家に入ってきたハエが、やたらと母にぶつかっていきました。
祖母の気が強かったこともあって、母とは昔から、意見が合わず、ぶつかることが多かったらしいのです。
いざ介護となると、より近くで関わる葛藤や、昔のことを思い出して更にぶつかることもある中で、母は「それでも、やらないかん」義務感や、愛情や色々な気持ちがあったと思います。
母にぶつかっていくハエを見て「どういう関係だったのだろう」、「色々大変だったことだろう」と、色々感じていると、家族も面白がって「おばあちゃんみたい」と、自然と祖母の思い出話をしました。
祖父母とも、家族にはとても愛情のある人で、孫の私に優しくて大好きでした。
そう思わせてもらえたのは、家族の色んな関係性で成り立っているものだと感じたので、おばあちゃんから家族へ向けたメッセージソングを思い出として残しておこうと曲を作りました。
「三回忌も終わって、そろそろ涙も枯れてきた頃でしょう。だから姿を変えて会いに来ました。」という曲です。
前に聴いてくれた人の中には、別れた恋人との恋愛に照らし合わせながら聴くと泣けてくると言う方もいました。
それぞれの捉え方で楽しんでいただければ嬉しいです。
「物語」からつながる、より良い関係の輪
―曲中に登場する方との印象的なエピソードがあれば、お聞かせください。
『トナリの長屋』(アルバム『詩たより』収録曲)は、私が勤務している施設の隣にある長屋風のお家のおばあちゃんが主人公です。
近所を徘徊しているのをよく見かけていたので、職業柄気になって話しかけてみたら、とても明るくてチャーミングな方でした。
お話を聴いていると、節々に必ず息子さんが登場します。
おばあちゃんにとって、息子さんの存在がとても大きいのだと感じました。
私自身は親になったことがないので「親にとって、子供というのはどんなに大きな存在なんだろうか?」と疑問を抱きました。
ちょうど曲を作った頃が、私の母が祖母を介護していた時期と重なって、嬉しいことだけでも悲しいことだけでもない、曖昧でグレーな部分を表現したくて作った、親子の曲です。
このグレーな部分が、とても大事なところですが、見つけるのも、見つめ続けるのも、難しいと感じています。
私自身は、仕事として介護に携わっている身で、ご自身の家族を介護する方とは感じ方も、負担も全然違うと思っています。
色々なものを犠牲にしながら、ご家族を介護している方も多く、お互いの愛情をずっと感じていられるモチベーションには、なりにくいかもしれません。
少しでも、私の曲が心を落ちつけられるキッカケになれば嬉しいです。
―これからの介護現場で、実現したい未来像はありますか?
音楽を通して“つなぐ役”になりたいです。
自主企画ライブ『歌で紐解くあなたのアナザーストーリー』を例に挙げると、ゲストのお話は、頭では理解できても、聴いている方たちの感情の部分は動かないところもあるようです。
歌を通すと、頭での理解だけはなく感情の部分に、スッと入っていくものがあるように感じます。
一人の方の気持ちを、聴いたお話を基に自分なりに落とし込んで歌にして、ライブ会場の皆さんに伝えて、聴いてくださった方たちのフィルターを通して広がって、つながっていくような、良い関係作りの“つなぎ役”になりたいです。
―今後は、どのような活動をしていきたいとお考えですか?
ライブ企画を色んな地域でやりたいです。
“その地域・その人だからこそ“の思いや歴史を、歌にして発信していきたいです。
各地の施設や、介護職員の皆さんのそれぞれの思いを共有しながら、現場の良い関係作りに繋がれば理想的です。
今後も介護の魅力、人の物語を伝え続けていきます。
組織概要
かんのめぐみオフィシャルサイト:
http://kannou-megumi.wixsite.com/kanno-music-kagawa
ライブ情報:
http://kannou-megumi.wixsite.com/kanno-music-kagawa/live
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執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
編集:GCストーリー株式会社 佐藤
画像提供:かんのめぐみ
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