かつては身近な生活の一部であったお寺や神社。近年の統計ではお墓参り、初詣、法事のみの関わりになっている方が増加傾向にある一方で、若い世代でも座禅や写経、法話に関心を示す人々も増えてきました。信仰や宗派を超えて、人々のこころの平穏のためにお釈迦さまの教えを知ってもらおうと、様々な活動を展開する神社・仏閣も多く見受けられるようになってきました。
今回は、多くの人に仏教の癒しを届けることを目指して、伝統仏教声楽「聲明(しょうみょう)」を現代音楽とコラボレーションさせた「現代仏教音楽」を各所で演奏している、高野山真言宗南山進流の龍源山功徳院(くどくいん)住職であり、一般社団法人 現代仏教音楽研究会 代表理事の松島龍戒さんにお話を伺いました。
どうすれば“真にやりがいのある道”になるのか
―どのような経緯で仏門に入られたのですか?
私は昭和43年(1968)年に神奈川県で生まれました。
父は若い頃に真言宗の修行をおさめ、普通の一般家庭として生活をしていました。
私が現在、住職を務めている功徳院(くどくいん)は、父の兄である叔父が前住職です。
大学卒業までは仏教やお寺には縁のない人間でございましたが、後継者がおらず、突然継ぐことになったのが、仏門に入ったキッカケです。
大学4年で就職が決まっていた時期でありましたが「そういう道も良いのではないか」と考えて選びました。
―仏門の修行に入るというのは、そう簡単な覚悟ではなかったのではありませんか?
後継者として期待されている空気は前々から感じておりました。
親の願いを受け入れる、自分がやらなければお寺が立ち行かなくなる、というプレッシャーを拒否するだけのものが当時の自分にはなかった、とでも言うのでしょうか。
迷いながら決めましたし、「私がやらねば!」なんて言うほど格好良いものではなかった、というのが正直なところなのですよ。
―迷いながら仏門の道へ進まれたのですね。修行は高野山でされたのですよね。
真言宗の僧侶資格を得るために高野山で1年間修行し、別の機会に3年の修行を積みました。
迷いながらもやっていればどうにかなるものです。
私の迷いとは、分かりやすく申し上げると“お坊さんになるのが嫌だった”ということです。
「嫌な仕事を、どうしたら真にやりがいのあるものにできるのか?」
この問いが、現在の様々な活動に繋がっています。
どんな仕事にも共通しますが、嫌でもやっていれば、周りの方が育ててくれるということがあります。
私は嫌々ながらも、お坊さんになり、お寺に入りました。
今まで見たことも触れたこともない世界で、ご縁のなかった方、特に困っている方々と多くお会いする中で、徐々に「どうせやるなら、きちんとやりたい」という思いが湧いてきました。
この功徳院で何年かお坊さんのお勤めをするうちに僧侶の仕事の重大さに気づいて「迷いながらでも何とかやっていれば良いものではない」と、再び高野山に入り3年間の修業を積みました。
―病院・施設で、お話や仏教音楽の体験会などをしておられるのですよね。
僧侶が病院や施設など、さまざまな場所に自然に溶け込める社会を作りたいと考えて、ご縁をいただいた場所で活動しています。
お坊さんは、人が亡くなってから関わる縁起の悪い存在と思われがちです。
死後、お経を上げてお葬式をすることも、ご供養やご遺族の悲しみを癒す大事なことですが、それだけではありません。
仏教は、お釈迦様が「いかに生き、いかに死ぬか」という人生哲学のような教えです。
「生きている方に、何か導きができないものか?」と考える時、お経はその延長線上にあると思っています。
人は、生まれて、老いて、病をえて、死んで、死後の世界へ流れていきます。
病院や施設は、一連の人生の流れの中で、生の部分に関わることができる場の一つです。
宗派や所属する教団の教えを広めるのではなくて“お話する方の考えに寄り添う”ことを、大切にします。
例えば「天国に行く」と言われたら「いや、天国ではなくて、極楽ですよね」と言うことはありません。
目の前にいる方の思っていらっしゃる考え方に共感する存在として寄り添いお話を伺います。
仏教音楽の体験会では、今を生きる人に、元気をお届けしたいとの思いから、普段触ることのできない仏教楽器や仏教法具に実際に触れながら、歌や音の体験をしていただきます。
今を生きる人に、仏教音楽で元気を届けたい
―今を生きる方と仏教をつなぐための活動にも注力されているのですね。
仏教用語には、先ほど申し上げた、生まれて、老いて、病をえて、死んで、死後の世界へ流れをあらわす「生老病死」という言葉があります。
今は“死”というポイントでのご葬儀と、“死後”の供養やお墓という、大事なことではあるけれども、生きている間の関わりが、大きく欠けています。
もちろん、お一人の方の人生のタイムラインにずっと関わることができれば何よりですが、お坊さん全体の存在価値として、「生老病死」における活躍が当たり前になっていけばよいと思っております。
昔は檀家さんが病気になったら、お坊さんがお見舞いに行くお付き合いが自然でしたし、枕経といって、人が亡くなる前からお坊さんが呼ばれて奥の間に控えていて、亡くなってすぐにお経を上げていました。
近年は約8割が病院で死を迎えるようになり、臨終に際して、お寺は関わりにくくなりました。
1976年に医療機関で死亡する方の割合が、自宅で死亡する方の割合を超えた頃からのことです。
地域性もありますが、病気の時は医師、介護は介護事業者、葬儀は葬儀屋さん、読経はお坊さん、と役者のようにピンポイントの配役になっているのが一般的な現状です。
私がお坊さんになったばかりの頃、母が入院して略式の外出着で見舞いに参りましたら、病院受付の方たちが慌てて寄って来て、葬儀関係者用の裏口を案内されました。
病院という場所では、お坊さんは縁起の悪い存在であって、生きている方には縁のない現状を変えていければと思っています。
現代はストレス社会と言われ、今までとは違う様々な悩みや苦しみがある時代です。
仏教の教えやお釈迦さまの言葉、お釈迦さまの弟子たち、空海や最澄などの考え方が、本来は役立つはずであると私自身は思っておりますので、流れとして多くの方にお繫ぎしていきたいのです。
お経の音に込められている“癒しの力”
―近代では宗教は敬遠されがちな印象もありますが、住職はどうお考えですか?
短期的なスパンでは、一部の新興宗教の事件等の影響で、宗教が胡散臭いものになってしまって、現代的な悩みを抱えている方の行き場がなくなってしまった側面があるのではないでしょうか。
周りの方が、その方に信仰やお経の智慧が必要になった時に「おいおい、やめておけよ」「縁起でもない」と止めてしまう風潮があるのは、少し心配です。
死を間近にした方や、ご高齢になっていくと、自然と信仰心に近い感覚が生まれてくるように思います。
私の個人的な感覚にすぎませんが「若い頃は信仰心などなかった」と仰る方が圧倒的に多いですし、そういうものだと思うのです。
ありがたいものを「これは、ありがたいものですよ」と人に言われても、なかなか実感が湧きにくいですよね。
特に幼い頃、若い頃は、おじいちゃん、おばあちゃんが言っても、なかなか耳を貸さない人もいらっしゃいます。
少なくとも、お寺を訪ねるのは気軽にできることで、お坊さんは、今を生きる人にも力を貸してくれる存在であることを示すだけでも価値があり、そこに繋がる活動を広げていけたら良いと思っております。
―お経の素晴らしさを実感したキッカケは何でしたか?
一つは、お経にとても救われている人を間近で見てきたことです。
私は日頃から「お経を読むことは大事でも、それだけが目的ではありません」と申し上げてきました。
それでも実際に、一生懸命お経をあげていることに、参列者の方がものすごく感激なさったり、涙を流したりする姿から、お経そのものに、大きな力があることを実感しています。
もう一つは、自分自身が日々変わっていっていることを知る時です。
まさに仏教の教えの「諸行無常」です。
決まり文句のように申しますが、諸行無常とは、生まれたらいつかは滅びなければならない。すべては変化し続けていくものであって、永遠に続くものは何一つないのですよ、と、辞書的に言えばそういうことです。
諸行無常は、無常だけを説いているのではなくて、心も変わっていくことができるということではないでしょうか。
お経や行、一つ一つの中に気づきのキッカケがあります。
お経には、言葉として意味的に解説・理解ができることと、意味が分からなくても唱えている音の力と申しましょうか、お経のメロディや雰囲気の“音”に癒しの力があるように感じております。
例えば、ちゃらんぽらんだった私自身が、こんなに変わっているという力がそうです。
仏教をやっていなくとも、仕事をしたり、社会生活で苦労などされている方は感じていることでしょうけれど、私は仏教の道にあったからこそ、このタイミングで気づきを得ることができているのだと思うと、感謝しかありません。
自分自身が変わっていくことに対して、仏教の力を感じております。
組織概要
高野山真言宗功徳院 すがも平和霊苑HP:
http://www.haka.co.jp/
松島龍戒オフィシャルサイト:
http://www.tera.or.jp/
一般社団法人 現代仏教音楽研究会:
http://bukkyo.shop-pro.jp/
YouTube:
https://www.youtube.com/channel/UCZNXh4NWoz24jXzWETQHIEg
Facebook:
https://www.facebook.com/ryukai.matsushima
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
編集:GCストーリー株式会社 佐藤
画像提供:高野山真言宗功徳院、一般社団法人 現代仏教音楽研究会
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