排泄は高齢者にとって、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)や尊厳に関わる非常に重要な要素です。排泄ケアが必要になると、在宅生活の継続が困難になるケースも多く、未病ケアや自立支援の発展に期待が寄せられています。
また、平成25年度国民生活基礎調査による便秘人口分布によると、60代から男女共に便秘の有訴者数が増えています。
今回は、自分で腸のケアができるようになる「セルフ腸ほぐし」の指導にも力を入れている、腸律セラピーサロンセラピーエ代表の小澤かおりさんにお話を伺いました。
腸って超スゴイ!自分でもできる“腸律セラピー”で免疫活性
―はじめに“腸律セラピー“について教えてください。
“腸”って“超”スゴイんです!腸というと排泄のイメージを思い浮かべるかもしれませんが、実は消化、分解、吸収したり、細菌やウイルスを排除する役割などがあって、東洋医学では、栄養、酵素、ホルモン、血液を作るとも考えられています。
ですから「腸が汚れる→血液が汚れる→臓器が汚れる」と不健康になるわけです。
“腸律セラピー”は、腸のを優しくほぐしていくことで、腸と心と身体のバランス整え、調整(腸整)、調律(腸律)改善を行う腸ケア技術です。
小腸は「人体最大の免疫器官」と言われ、全身の60~70%の免疫細胞が集中していて、腸の弱りや心身の弱りにも直結していることが最近分かり始めました。
腸律セラピーでは主に小腸にアプローチします。皆さん腸にアプローチする時は大腸に主眼を置きますが、解毒や腸内細菌の活性には小腸にアプローチすることが大切なのです。
―「優しくほぐす」ということは、痛みはないのでしょうか。
その方の腸の状態に合わせて優しく“さする”ので、基本的に痛みはありませんが、ストレスや自律神経が乱れていて、そっと触るだけでも強い痛みを感じる方もいらっしゃいます。
優しく揺らすだけで、とにかく負担をかけないように施術していきます。
施術の際は、肌が露出したり、直接お肌に触れることはありません。
ご自宅に伺っての施術も可能ですので、お身体を動かせない方にもご利用いただけます。
セラピーを受ける方や、付添いのご家族には、自分でできるセルフケアのやり方もお教えします。
次の施術までに、自分でお腹を触ってみて、どこが硬かったか、冷たかったか教えていただいけると、その意味や改善方法をお伝えできます。
理解・納得してから、少しでも自分の身体で体感すると、続けてみようという気持ちになりやすいのではないでしょうか。
ほんとうに簡単だから「あなたにもできますよ」とお伝えしたいです。
―なぜ“腸律師“になったのですか?
私の祖母は、まだ孝行しないうちに他界しました。祖母に何もできなかった分、周りの高齢者の方たちに優しくしたら、喜んでくれるんじゃないかと思い、介護士資格をとって施設で働いていたんです。
当時は“薬は効くもの”と思っていたので、たくさんの方をお世話させていただきながら「こんなにたくさん薬を飲んで、なぜ良くならないんだろう?」と疑問に思っていました。
薬が増える度に、どんどん体調が悪くなっていくし、ほとんどの方が下痢や便秘の排便トラブルを抱えていたんです。
[参考:平成25年度国民生活基礎調査 便秘人口分布]
「なぜ、こんなに排便トラブルになるんだろう?いっぱい薬を飲んでいる人ほど排便トラブルがひどいなぁ」と気がついて、飲んでいる薬を全部調べました。
副作用を見ると必ずキーワードがあって“便秘、下痢、腹痛、胃の痛み、膨満感、吐き気、胸やけ、嘔吐”など全部お腹に関わることだったんです。
「病気と薬と胃腸の動きの関係が分かれば、高齢者が大量の薬を飲まなくても良くなるのではないか?」と探しつくして、やっと 「これだ!」と思えたのが“腸律”でした。
「排便トラブルが悪化する→薬が増える→病状が悪くなる」という悪化サイクルから「排便トラブルが良くなる→薬があまり必要なくなる→病状が良くなる」という“改善のサイクル”に変えられると思い“腸律師”の道を歩み始めました。
“腸律”で排便トラブル予防!ココロもカラダも内側から綺麗!
―排便トラブルは、人の尊厳にも関わる問題ですね。
介護状態で便秘に悩む方はとてもお辛いと思います。
排便トラブルは、酷くなると便秘が長く続いて下剤さえ効かなくなって、出口まで便が来ていても腸の力が弱っていて排出できなくなる方がいらっしゃいます。
自分で排出できない場合には「摘便(てきべん)」といって、手足を抑えられ、看護師が手袋をして、便を搔き出します。介護施設時代は、これが一番辛かったです。
ある日、看護師さんが固まった便を搔き出す間「痛い、やめて!!何でこんなことされるのー!!」と叫ぶ患者さんを抑えていて、確かに必要なのですが「何でこんな風に自分が人のことを抑えているんだろう?これは良いことなの?悪いことなの?」って。
加齢によって人の助けを借りる時が来るにしても、それまでの時間を少しでも長くしたいです。
大切な人に何をしてあげられたか、何をしてもらったか、は特に見送る側にはすごく大切で、その1つに“腸律セラピー”は「あり!」だと思うのです。
―水分摂取を控えて便秘になる方も多いと聞きます。
排泄はとても重要ですが、出すのが辛かったりお手洗いの介助で迷惑をかけたくなくて水分を控える方もいらっしゃいますね。
家族の方も、トイレが近くなるからとお水を控えさせるケースもありますが、それは悪循環です。
でも家族の身になれば、排泄介助はとても大変です。だからこそサポートする人が必要だと思います。
ご家族だけではなく、看護師さんや介護士さん、ホームヘルパーさん達が“腸律セラピー”をできるようになってほしいです。
―家族やお世話をしてくれる人が“優しく触れる”というのは心地良さそうですね。
確実に人の記憶に残るのは「ぬくもり」ではないでしょうか。私は祖母の「痛いの飛んで行け」や、父に頭をなでられたことを思い浮かべただけで温かい気持ちになります。
認知症の方をたくさん見てきましたが“愛”だけは覚えているのではないかと思うのです。人に噛みつくような方でも、優しく優しく手をさすったり、手を繋いで「きょうのごはんは〇〇だよー」と話しかけると、力が抜けてきたり。
手から伝わる“ぬくもり”は、どんな人にも伝わると私は思っています。それは誰にでもできます。
夜に起こして「トイレに行きますよ」と言っても“トイレ”が分からない。なぜ起こされたかも分からなくて、介助で大変な思いをすることも度々ありました。
そういう時に、きちんと手を引いて1つ1つの動作を説明しながら丁寧にやってあげられれば、その時は分かってくれます。
1日に何時間もそうすることは家族の方もキツイでしょうけれど、1日5分だけでも“大切な人に触れる”時間を作っていくと、お互い変わってくると思います。特に“お腹”は、感情がすごく溜まりますからね。
―腸律セラピーで”お腹“に溜まった感情もほぐせるのでしょうか?
私が知っていることは全部惜しみなくお伝えします。介護は大変なことも多いかもしれませんが、
腸は生物の最古の器官です。お腹を触ると、どんな感情が強いのか、どういう気持ちか、分かるようになってきましたので、それもお教えします。
「いま不安な気持ちですよ」とか「ここが固いとイライラしていますよ。原因に心当たりはありますか?」と、そこから探求していくと、お腹から伝わることを通訳みたいな形で使うことが出来ます。
例えば伝わらないストレスかもしれない時は、ゆっくり話を聴いてみるとか。「ほんとにこの人の言っていることは分からない」ではなくお腹から理解できる可能性があります。
「おばあちゃんのお腹を何とかしてあげたい」という方には、一緒に手を取って「ここは柔らかいけど、ここは固いでしょう。それはこういう意味ですよ」とか「いま水分不足ですよ」とか、手で教えて差し上げたいです。
人は必ず死にます。何をしてあげたか、何をしてもらったか、その人から何を学んだか。人の死は自分の生き様にも関わって来るし、その人の生き様を知ることにもなります。
”腸律セラピー“を知って「ちょっと介護やってみようかな!」「介護に取り入れてみようかな!」という人が増えてくれたら嬉しいです。
大切な人のお腹をさするだけ。あなたの手は “魔法の手”になる
―たくさんの方を癒したご経験の中で、印象に残っていることはありますか?
不登校だった男の子の改善例です。その子は、便秘で救急搬送された時に処方された浣腸と下剤をずっと拒否し続けて、お母さんが困り果てて私のサロンに連れて来ました。
お腹を触ると自律神経の乱れ、睡眠不良がよく分かりました。彼は学校で嫌われているわけではなく、お友達もよく接してくれる中、学校に行けない自分に悩んでいました。
「中学に行く意味が分からない。高校に行く意味も分からない。」と言い、何になりたいか尋ねると「ニート」と言っていました。
「あなたは悪くないよ。腸が気持ちを引っ張っているから、腸が良くなれば行く気になれるよ」と伝えて施術をした後、彼は懸命に、教えたセルフケアを毎日実行してくれました。
3か月で学校に行けるようになり、半年後には本人の念願だった修学旅行も行けました。
お母さんからも「息子が高校の志望校を見つけることができて、いま猛勉強をしています」とお礼の連絡をいただきました。
本人に自信も笑顔も戻って、支えてくれたお母さんとご家族が、とても喜んでくれました。
腹が立つと固くなるところ、腑に落ちない時に詰まるところ、緊張してると細くなるところ、など、口では話さなくても、お腹を触れば分かります。
お母さんと話す時に緊張していることが分かった時は、なぜ緊張するかを聴いて、認識の行き違いがある可能性について対話のアドバイスもしながら改善していきました。そうすると、お腹が柔らかくなっているのが触って体感できます。
何が原因かは人それぞれ全く違います。お腹は嘘をつきません。隠して笑顔でいても分かってしまいます。ですから私の施術は腸“もみ”ではなく腸律の“セラピー”なんです。
―今後“腸律セラピー”を通して、どんなことを伝えていきたいですか?
腸の形は、時間や日によって全然違います。
毎日のセルフケアで「ここ硬いなぁ!ということは、私イラついてたんだ」とか「怖かったんだ」と、自分の感情をお腹から図ることができます。
脳は時に自分自身も騙すので、お腹から、自分の感情を感じ取って承認してあげられれば、より良い人生を創っていけると思うのです。
腸を柔らかくほぐすことで、感情もほぐすことができます。例えば、お子さんであれば、読み聞かせをしながらお腹をさすってあげるだけでも、効果があります。
大切な人の喜びや笑顔は連鎖します。そういう未来を創っていきたいです。
「身近な人をあなたの“手”で幸せに出来るんですよ!」と伝えたいです。1人の喜びは皆の喜びになります。
組織概要
腸律専門サロンセラピーエHP:
http://therapyie.com/
Facebook:
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参考文献
『脳はバカ、腸はかしこい』藤田 紘一郎著(三五館)
参考サイト
「平成27年度特別養護老人ホームにおける入所者の重度化に伴う効果的な排泄ケアの在り方に関する調査研究事業報告書」
:
http://www.roushikyo.or.jp/contents/research/other/detail/257
「平成 25 年 国民生活基礎調査」
:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/16.pdf
「小腸がん/国立研究開発法人国立がん研究センター希少がんセンター」
:
http://www.ncc.go.jp/jp/rcc/01_about/small_intestine_cancer/index.html
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社阿南
画像提供:腸律専門サロンセラピーエ、pixabay
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