日本では1991年に登場したと言われる「エンディングノート」。2012年の経済産業省の統計では70歳以上の作成意向は69.2%に上り、年々向上していると予測されます。
延命措置、介護、相続等について、もしもの時、代わりに意思決定を迫られる家族の心的負担を減らすための意思表示を目的に、認知度も向上しています。
今回は、誰しもに訪れる「死」をゴールに「いかに生きるか?」を子供から大人まで、世代問わず考えることができるエンディングノートを開発した「マンダラエンディングノート普及協会」代表の小野寺秀友さんにお話を伺いました。
「らしく生きる」ために家族に「思い」を伝えるノート
―前職では葬儀社でご遺族のサポートをされていたのですよね。なぜ独立されたのですか?
当時は8年間で約2500件担当しまして、短期間でケアした件数は日本一ではないかと思っています。
最高で月60件、朝から晩までご遺族のためにとにかく訪問し続けていました。
一般的に葬儀担当者は、月多くても7,8件程度かと思います。
「寄り添い」には、よく傾聴、共感が大切と言われます。
私は最後に「励まし」がないといけないなと思っていて、背中を押す役割の人が世の中に少ないなと思ったんです。
葬儀で言えば「グリーフケア(※1)」という言葉を聞いたことはありますか?
とても大事なことですが、基本的には「悲嘆」が前提と考えるケースが多いです。
数千件のアフターサポートの経験から、もちろん悲しんでいる状態もあるけれど、ずっとではありません。
例えば「まだお墓に入れたくない。」とおっしゃる方に「いつまででも手元に置いていて良いんですよ。」と言うと、寄り添っている言葉に聞こえます。
しかし実際には1年経ったら、ホコリだらけの祭壇にお骨が乗っている状態になっているケースも少なくありません。
※1:グリーフケア:身近な人と死別して悲嘆に暮れる人が、その悲しみから立ち直れるようそばにいて支援すること。(デジタル大辞泉)
「ほんとうに故人やご遺族のためになることは何か」を軸に「どうあるべきか」を考えていくのが本来の寄り添いだと思っています。
そう思っていてもやり方・方法が分からない葬儀社さんがたくさんありますので、体系化したものを色々な会社さんに伝え広めていきたいと思って独立しました。
―「マンダラエンディングノート®」開発のキッカケをお聞かせください。
開催していた終活セミナーで、一般のエンディングノートはこの先どうなるか分からない部分が多くて書きにくいところに違和感がありました。
「終活や葬儀について予め家族と話し合っておきましょう。」と言っても、「結果を書かなくてはいけない」となると、難しくありませんか?
例えば、今の「通帳の保管場所」を書いても、20年後どこにしまっておくか分からないですよね。
ずっと手を付けていなかった「お金」が100万円あったとしても、「もしものため」のものだから「病気や事故で来月使うかもしれないぞ。」と思うと書けないんですよね。
私は「エンディングノート」は家族とのコミュニケーション手段であるべきだと思っていました。
「マンダラチャート®」という技法を知り、講師だった橋本隆氏とともに「直感的に大切な今の思いを伝えることが大事。」というところから、ノートの開発に着手しました。
―「直感で書ける」とストレスが少ないでしょうね。独特な手法を用いているのでしょうか。
「マンダラエンディングノート®」には、「魔法の質問®」「マンダラチャート®」「コーチング」という3つの方式を集約しています。
「魔法の質問®」とは、質問家マツダミヒロ氏が主宰する、「答えるだけで魔法にかかったようにやる気や気付きを引き出す」質問の手法で、アイディアが湧きやすい質問形式になっています。
「一人でも多くの人が、その人らしく生きていけたらいいな」というビジョンから生まれていて、
自分の中の新しい発見と再発見が「らしく生きる」ためのキッカケとなります。
「マンダラチャート®」は、クローバ経営研究所会長の松村寧雄(マツムラヤスオ)氏が「人生とビジネスを豊かにする」ために開発した手法です。
中心核を持つ3x3のマトリックス図で、全体と部分と関係性を一度に把握して、設定したテーマを考えることが出来ます。
作成のガイドとして、コーチングの要素を各所に散りばめて、無理に書かずに思いや気づきを引き出せることを重視しました。
イベントでは、高齢者の方たちがご自分では書けなくても、対話をして書けるような内容をご提供しています。
現在はセミナー講師を務めるファシリテーターが210名ほどいて、日本、韓国を合わせて30都道府県に広がっています。
自然と引き出される1人1人の「大切な思い」
―主流の「エンディングノート」との違いをもう少し詳しく教えてくださいますか。
大きな違いは「シンプルさ」です。
すべての項目を同じ形式に作っていて、見れば自然と答えが湧き、気付きや発見を手助けする手法を取っています。
例えば一般的には「財産」の項目で、不動産や株・証券について記入する場合、持っている財産がなければ、ただ「なし」と記入します。
「マンダラエンディングノート®」では、財産全体を見渡して「ない」ことから「気づいたこと、思ったことは何ですか?」の質問に答えます。
そうすると、自分の財産はモノではなく「人が財産だと思った」という気付きを得ることが出来たりします。
「マンダラチャート®」を用いると、各テーマの全体と部分と関係性が一度に分かりますので、認知症をもつ方にも書いて頂いている実績があります。
一般のものでは、複数のページにまたがっていて、前に書いたものが分からなくなって書けなくなる方でも、全体を見ながら1つ1つの項目を1ページで書けるので、書きやすいのです。
認知症をもつ方たちのコミュニケーション手段に出来る可能性があるそうで、ケアマネージャーさんの講師養成講座受講者が増えてきています。
先日沖縄で開催された「認知症ケア学会」では、ターミナルケア(※2)認知症ケア専門士の当協会ファシリテーター川尻義子さんが発表をさせていただきました。
※2:ターミナルケア:終末医療(デジタル大辞泉)
ケアプランを立てる時に、「人生の地図を描く」という項目を入れていて、認知症をもつ方たち全員に、この「マンダラエンディングノート®」をやってもらっているのです。
さらに、認知症をもつ方だけではなく、そのご家族の方も一緒に、皆でやるという取り組みをしています。
新人ケアマネージャーさんにも使い方を教えて、利用者さんの思いを引き出した上で、ケアプランを立案しています。
川尻さんは「マンダラエンディングノート®」を使って、10名を超える方を看取りました。
「マンダラエンディングノート®」には、大切な人へのメッセージを書くページがあります。
大切な人の面倒を見切れなかったことを後悔しているご家族が、お見送りの後ご本人のノートを見たら、関わった人や、ご家族への感謝の思いが綴られていたこともありました。
「誰に何と感謝を伝えたいですか?」という質問に繰り返し答えることで、普段考えたことも無いような「思い」に気づいたりもします。
そしてその「思い」を言葉にして伝えあうことで、大きな喜びを感じる方がいらっしゃいます。
まさにコミュニケーションの1つの道具としてお使いいただいていることは、私たちにとっても大きな喜びです。
―「思い」を伝えるための「コミュニケーション」手段という位置づけなのですね。
私は、人が不安をなくすためには、3つの方法しかないと考えています。
1つ目は「全部分かること。」これは難しいですね。
2つ目は「全部知らないこと。」これも生きていく上で実際には出来にくいですね。
3つ目は「何となく見当をつけること。」脳の見当識という仕組みを使う方法です。
「マンダラエンディングノート®」では、人生の地図を描いて「何となく見当をつける」ことをお手伝いします。
このノートは、必ず最後まで書き上げることができます。
書き上げた方のほとんどは、具体的には何も決まっていない状態でも、安心されます。
自分の中で潜在的に思っていることが「気づき」として自然と引き出されるからです。
まさに、ケアプラン作成の際のケアマネージャーさんの役割の1つですね。
「お詫び」ではなく「お世話になったことへの感謝」を伝えたい
―講習会で書くことで得られる効果はどんなものですか?
このノートは「魔法の質問®」の手法を用いて「デュアルタスク」になっています。
質問を投げかけられると、人は頭の中で答えを導こうとします。
そして頭の中で考えたことを、作業として手で書きます。
更に、考えたことを発表すると「自分の思い」を人に話し、聞いてもらえたことで「自己重要感」が湧いてくるのです。
この「自己重要感」はとても重要です。
歳を重ねると、じっくり話を聴いてくれる人も少なくなっていく方が多いようです。
講習会では「自分の話を聴いてくれる」人たちがいます。
例えば「要介護になったらどこで過ごしたいですか?」という質問があります。
「自分は施設かな?」と思っていても、他の人は「海外で介護を受けたい」と答えたとします。
相手の方が、自分が思っていることと違うことを話してくれたら「気づき・発見」に繋がりますよね。
体系化された「マンダラチャート®」では、質問の1つ1つに番号(番地)がついていて、同じ項目を簡単に共有し合うことが出来る仕組みになっています。
―皆さんのお考えを聞けば聞くほど、新しい発見が増えそうですね。
この書き方、進め方のポイントは「直感で答えてOK」「本音でも建て前でもOK」「書けなくてもOK」なところです。
もちろん、今日書くことと明日書くことは違っても良いので、日付を必ず記載することも大事です。
―「マンダラエンディングノート普及協会」が大切にしていることは何ですか。
人は関わりの中で生きていることを、伝えていきたいです。
「マンダラエンディングノート®」で伝えていきたいのは「迷惑をかけることへのお詫び」ではなく「お世話になったことへの感謝」の思いです。
自然に湧いてくる「思い」を伝えることが出来るように開発しました。
例えば「供養・法事・仏壇」の項目では多くの場合「迷惑を掛けたくないから仏壇はいらない、○○しない」という思考になりがちです。
自分が迷惑をかけないために書くのではなく、「大切な人をどのように供養したいか?」を答えていただく構成にしています。
―協会が描く未来像について、お聞かせください。
「エンディングノート」の役割は、「思いを伝えること」だと考えています。
家族、友人や上司・部下の人たちに「自分の思いを伝える」ことが感謝に変わると思っています。
「感謝」は伝わってこそ。
「マンダラエンディングノート®」を通じて人それぞれが持っている「大切にしている思い」が当たり前のように伝わる時代になったら良いなと思っています。
―2年余りでファシリテーター(講師)がとても増えていますね。
協会によっては、「創始者の言う通りにやるのが必須」のものも多いです。
当協会では講師=先生という位置づけにはしていません。
短期間で増えた要因は、参加者の思いを引き出すファシリテーターを養成することで知識や経験、業種もまったく関係なく受講できるからかもしれません。
ファシリテーターの方たち本人が「感じたこと」を伝えてくれていて、そこに乖離やブレがないから伝わるのだと思います。
とにかく本人がやってみて「感じたこと」を伝えていく、というやり方です。
今年は、各専門分野の研究会を起ち上げることが目標です。
終活に関わる方たちが、それぞれの専門性を活かしながら、ファシリテーターとして相手の思いを自然と引き出すことが出来る活動を目指しています。
組織概要
マンダラエンディングノート普及協会HP:
https://www.epi-con.com/blank-5
1分で分かるマンダラエンディングノート<魔法の質問編>動画(You Tube):
https://www.youtube.com/watch?v=u-YTJbfMewU
1分で分かるマンダラエンディングノート<コーチング編>動画(You Tube):
https://youtu.be/X27KZ9aXtn8
参考文献
『安心と信頼のある「ライフエンディング・ステージ」の創出に向けた調査研究事業報告書』
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002295.pdf
参考サイト
マンダラ手帳HP:
http://www.myhou.co.jp/
魔法の質問HP:
http://www.shitsumon.jp/
コーチングアカデミー東京校運営(株)YCDI HP
http://ycdi.jp
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
画像提供:マンダラエンディングノート普及協会
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