漠然とどうにかしないといけない、とは思いつつも先延ばしにしがちな介護の問題。課題として挙げられるのが「情報不足」です。今回は、親と子供のコミュニケーションツール「親ブック」の販売や企業に対しての「介護離職に関するセミナー」を行っているケアポット株式会社代表取締役高橋佳子様にお話を伺いました。
親と子の幸福を繋ぐノート
―親ブックはどのような商品ですか?
親の趣味や好み、生活スケジュールを、介護者になる可能性のあるご家族と一緒に書き込めるコミュニケーションツールです。親の介護はある日、突然やってくることが多いです。約2割が脳卒中などで倒れて病院に、そのまま介護生活に突入することがあります。その時に重要なのは親のことをどれだけ知っているかになります。
突然ですが、ご両親の好きな歌を知っていますか?
―いや、ちょっと分からないですね...。
そうですよね。ご両親とどれだけ近い距離にあっても、親のことって分かっているようで分からない、ましてや離れて暮らしていると知る機会も少なくなります。
仮に、ご両親が認知症になったとします。その時に本人の好みや生活に関する情報が少ないと、お世話になる看護師さんや介護士さんとのコミュニケーションはどうしても当たり障りのない世間話になってしまいます。
本当はご本人にとって好きな歌や旅行の思い出を話したほうが会話も弾みます。しかし、本人の状態によっては、自分の好みなどを伝えることが難しいことがあります。
―確かに、ご本人に興味がある内容のほうが、コミュニケーションが豊かになり、よりよい介護につながりますよね。
そうなんです。そのためにも親の情報を知っておくことが大事になります。「親ブック」は、そうした“もしもの時”に役立つ情報を聞いて書き込めるノートになっています。
家族の介護を告白する機会につながる
―他にも企業にてセミナー・ワークショップも実施されているそうですね。
はい。企業の従業員の方向けに介護に備えるため、制度の周知や心構えに関するセミナーや、親のことを知る体験型ワークショップを行っています。
―参加人数はどのぐらいでしょうか?
企業規模にもよりますが、20名~30名で実施する事が多いですね。従業員向けセミナーで重要なことは、介護に直面する前に「企業から」情報提供をすることです。概ね、従業員のみなさんは介護に関して漠然とした不安を抱えています。不安になる理由は、「情報不足」が大きい割合を占めています。企業は、支援制度を事前に伝えて従業員の不安を払拭し、仕事と介護は両立出来るというイメージを持っておいてもらうことで、介護離職を防ぐことができるように思います。
―セミナーの特徴はありますか?
体験型ワークショップがあることが強みだと思います。介護の初動ですべきことを考えるワークショップや、親のことを知るワークショップをプログラムとしてご用意しています。親のことを知るワークショップでは、親ブックに沿ったワークシートを活用します。ご両親の日常の過ごし方や昔のエピソード、趣味、こだわりなどを、従業員個人で「知っている・知らない」をチェックした後に、グループでシェアをしていきます。
―ご家族のこととなると、なかなか話しづらい方も中にはいるのではないでしょうか?
中には、そういう方もいらっしゃいます。ご家族との関係に個人差があるのは当然です。話せる範囲でお話いただき、他の方のお話を参考にしていただければと思います。ここで重要なのは、親のことを意外と知らなかったこと、親の話をこれまで会社でしてこなかったことを認識することです。
そして、その後は組織のなかで親のことを話しやすい風土作りのきっかけになります。
―企業の人事にとっては、どのような課題が多いでしょうか?
まだまだ介護休業の事例が少なすぎるという状況です。経営者・人事などの方向けに開催される「介護離職防止」の合同セミナーに参加される企業は多いものの、企業内における取組が活発化するのはまだ先のように感じます。働き方改革が進む中、人事の課題は、介護だけではなく、女性活躍、育児、メンタルヘルス対策、障害者雇用など多岐に渡ることも要因になっていると思います。
母親の介護経験が親ブック誕生のきっかけ
―親ブックを作ることになったきっかけを教えて下さい。
2013年に私の母親が脳梗塞で倒れたことで、仕事から介護に専念した時期がありました。その時に母のことを知っていて良かったという思いから生まれたのが「親ブック」です。母が入院している時、看護師さんと母の情報を共有することが回復の促進につながりました。
エアロビクス、韓流ドラマ、父と行った旅行の思い出をアルバムにして病室に置いておくことで、看護師さんが積極的に母に話掛けてくださいました。
―相手のことを、知っていると会話が弾みますよね。
そうなんです。おかげ様でお見舞いに行くと、母は笑顔の日が多く、早い段階で食事を取れるところまで回復しました。介護は病院から施設へと転院が多く、また担当者が代わることが多いため、その度に、情報を共有することは大変でした。振り返ると親の情報を一冊にまとめておけたら良かったと感じました。また、母から聞いていた「お友達の名前」など思い出せないこともありました。母に話を聞いた時にノートに書いておけば良かった、そんな思いから「親ブック」を作ることにしました。制作にあたりこだわったのは、親子の会話が弾むようなかわいいデザインです。かわいいイラストや、温かみを感じさせる手書き調のデザイン、本に紐をつけたのもこだわりの一つです。こうしたこだわりも母の影響かもしれません。
―お母様の影響ですか。
はい。母は、明るく、おもてなし上手な人でした。母の介護を通して、大変と言われる介護でも、コミュニケーションを豊かにすることで笑顔の介護につながることを感じました。これからも弊社のテーマである“「かいご」に楽しさをプラスする”サービスを提供していきたいです。
ちょっとしたことで人は幸せになる
―これからどのようなサービスをお考えですか?
介護施設向けのレクリエーション企画や、介護される方向けの服飾などを考えています。
母は凄くおしゃれだったのですが、介護になるとなかなかおしゃれな服がなく、母が喜ぶような服を着せてあげられなかった後悔があります。介護される方の服はデザイン性よりも機能性を重視している服が多いのが実情です。そこで、介護になってもおしゃれでいられる服を作りたいと思っています。
また、今年から「親ブック」アンバサダーインストラクター制度というものを作りました。「親ブック」の大切さを理解し、「セミナー」や「ワークショップ」を開催して、一緒に「親ブック」を広げてくれる仲間を募集しています。
―アンバサダーインストラクター制度とはなんですか?
アンバサダーインストラクターの資格は「おかげ様の心」「おもてなしの心」「ありがとうの心」「しなやかな心」「遊び心」の「5つの心」に賛同してくれる人で、弊社認定のセミナーを受講した方になります。登録は無料で、オリジナルワークシートを自由に使えたり、親ブックをインストラクター価格にて購入出来るメリットがあります。
是非、ご興味ある方はご連絡いただけると嬉しいです。
団体概要
ケアポット株式会社
http://carepot.co.jp/
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社佐藤
画像提供:株式会社ケアポット
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