平成26年の厚生労働省『人生の最終段階における医療に関する意識調査』では、「自分で判断できない状態になった場合に備えて意思表示の書面を作成しておく」ことに「賛成である」と回答した一般国民は69.7%にのぼります。
一方で「実際に書面を作成している」と回答した方は、わずか3.2%でした。
今回は、生前意思「リビングウィル」の事前表明を推進する日本尊厳死協会理事の丹澤太良さんにお話を伺いました。
尊厳死は「早く死のう」ということではない
―「リビングウィル」について、教えてください。
「人間らしく生きたい、尊厳ある死を迎えたい。」と願っている方は多くいらっしゃると思います。
私たちは「リビングウィル」という、不治かつ末期の病態である時に、自分で自分の最期を決める「事前指示書」を普及するために活動しており、全国に約11万人の会員がいます。
どういう形で最期を迎えたいかは「最後の生をどう生きるか」という問題でもあります。
ご自身でよく考え、自分で決めることが、今求められていると私たちは考えています。
「人生の99%が不幸だとしても、最期の1%が幸せならば、その人の人生は幸せなものに変わる。」というマザーテレサの言葉があります。
99%幸せに生きてきて、最期の1%で大変苦痛な目に遭うことが、私たちの目の前で起こっています。
もちろん「あらゆる手段を使って生きたい」と思っている方も多くいらっしゃいますし、その意思も尊重されるべきです。
尊厳死とは、決して「早く死のう」ということではありません。
「リビングウィル」は「生前意思」とでも訳せばいいのでしょうか。いわば「いのちの遺言状」です。
「事前指示書」とも呼ばれます。
厚生労働省の策定したガイドライン(※1)では、「患者本人による決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療を進めることが最も重要な原則である。」とされています。
「回復の見込みがないなら、安らかにその時を迎えたい。」と「平穏死」、「自然死」を望む方々が、自分の意思を元気なうちに記しておく。
それが「リビングウイル」です。
※1:『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』
現代医療では、回復の見込みがなく、命の灯が消えようとする時にも、生命維持装置を使って人を生かし続けることが可能です。
一度、延命措置を始めたら、外すことは容易ではありません。
生命維持装置を外せば死に至ることが明らかですから、医師が外したがらないのです。
人には誰でも最後の日が訪れます。
「寿命を迎え、死が近づいて来た時にどうするのか。」
「いかに納得できる余生を過ごし、生ききるか。」
一人一人が真剣に考えなければならない時代にきているのではないでしょうか。
―「尊厳死」と「安楽死」の違いには、誤解が多いのではないでしょうか。
「安楽死」には二種類あります。
医師が薬物・毒物を投与して死期を早める方法と、致死薬を医師が処方し、患者自身が服用する方法で、臨死介助とも言われます。
薬を自分で飲むとしても、これは医師による自殺ほう助です。
いずれの場合も、人為的な措置や、処方される投薬や薬の服用で死を迎えることであり、日本の法律では、殺人罪又は自殺ほう助罪となり、私たちは、支持・賛同していません。
一方「尊厳死」は、死というのは自然であるべきで、痛み、苦しみについては緩和ケアを受けながら、QOL(生活の質)を大切にし、単に死期を引き延ばすためだけの延命措置を断ることを言います。安楽死のように、命を故意に縮めたりはしません。
あくまで、傷病が不治、かつ死が迫っている、生命維持装置なしでは生存できない状態に陥った場合のことです。
また、回復の見込みがある場合、死期が迫っていない場合の治療を断るものではありません。
「緩和ケア」に最善を尽くす1,500名の登録医師
―丹澤さんご自身の入会のキッカケをお聴かせいただけますか?
私の両親は古くからの会員で、特に母からは「抗がん剤は絶対に嫌だ。」と常々聞いていました。
実際ガンになった時も、本人は「リビングウィル」通り延命治療を行わないことを希望したのです。
母にそう言われたものの、私自身は少し葛藤がありました。
「どうにか母に抗がん剤を投与すれば、もっと生きられるんじゃないだろうか。」と。
兄弟・親戚とも話し合いました。
しかし、ステージIVの上、母はキッパリと抗がん剤を拒んでいました。
「無理矢理に投与しても苦しめるだけかもしれない。ならば母の意思を尊重した方が良いのではないか。」という気持ちもありました。
主治医の先生は「やってみてはいかがですか?」と仰いましたが、親族で話し合いの末、お断りして尊厳死協会の紹介医師に診ていただいたのです。
幸いなことに、素晴らしい緩和医療の先生に恵まれ、痛み苦しみはほとんど除去して頂き、最終的には、昼寝の延長みたいに逝きました。
ほんとうに良かったと思っています。
母の葬儀の折に、協会理事の方々も来てくれました。
「丹澤さん、あなたのお母さんほど見事な自然死を迎えた方はおられません。看取った経験を、ぜひ講演でお話してください。と言われて講演会を始めたのがキッカケです。
私には、母が「自分のような生き方も“選択肢の1つにある“ことを知ってもらって、世間のお役にたちなさい。」と言っているような気がするのです。
―協会から医師を紹介してくれるのですか?
「受容協力医師」と呼ぶ「リビングウィル」に理解のある医師の方たちが1,500名いらっしゃいます。
会員の方には協力医師の情報を公開し、ベテラン看護師による終末期医療の電話相談もお受けしています。
―講演活動では何をお話しているのですか?
関東甲信越支部では「出前講座」を年間50回ほど開催し、「尊厳死とは」「終末期を健やかに過ごすには」をテーマにお話しており、ご連絡いただければどこでも参ります。
会員の中にも「親がほんとうに終末期に苦しんだので、自分は延命治療を望みません。」という方がいらっしゃいます。
私たちが会員に発行する「尊厳死の宣言書」は、無益な延命措置を控えてもらい、苦痛を取り除く「緩和ケア」に重点を置いた医療に最善を尽くしてもらうためのものです。
こうした安らかな最後を迎えたい方々のために「リビングウィル」を発行し、支援しています。
ただし、宣言書に署名したからといっても、医師の判断や家族の理解によって、延命措置が施されることもありますので、しっかりと準備が必要です。
家族みんなで安心して寄り添うために
―尊厳死を宣言した後、やっておくべきことがあれば教えてください。
元気なうちに、「リビングウィル」のコピーを家族や代理人に渡しておくことが大切です。
また心境の変化があるかもしれませんので、一度書いても1~2年ごとに見直して、必要があれば更新するのが良いでしょう。
在宅での緩和ケアと看取りに同意してくれる、かかりつけ医を見つけておくことも大変重要です。
近所の病院の先生に聴いてみても良いですし、当協会から協力医師を紹介することもできます。
講演会では、元気なうちに出来る限りの身じまいの準備をしておくことをお奨めしています。
身辺整理であったり、遺言状の作成など、準備を済ませておけば、安心して生きることに専念できるのではないでしょうか。
自分らしく生ききるためには、健康管理も大切です。
傷病が不治の場合で、かつ死期が迫っている時に、苦痛を取り除く「緩和ケア」に重点を置いた医療を施してもらうのが「リビングウィル」です。
規則正しい生活、運動を心がけていただきたいです。
また、いざというときに救急車を呼ぶと、救命救急が仕事ですから、本人の意思に反して延命措置を施されることがあります。
その時には、「リビングウィル」を理解しているかかりつけ医に連絡して的確な判断をしてもらうことをお奨めします。
―ご家族の理解が難しい場合があるのではないでしょうか。
人の死、とくに家族の死は辛いもので、1日でも長く生きていてほしいという思いがあるでしょう。
私たちは「なるべく多くのご家族に理解しておいてもらうことが大切です。」とお伝えしています。
日本の現状では、親族が強く反対した際、訴訟リスクを避けるために医師の判断が変わってしまうことがあるのです。
医師側が結果として無罪になっても、訴えられるということだけで大変なリスクです。
家族の理解は最も重要です。
有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)でも看取り介護が実施されている施設が多数あります。
病状悪化の際は病院に搬送されますが、住み慣れた場所で最期を迎えたいという利用者ニーズに応え、特に特養は全体の7割が対応しています。
看取り介護の実施は、施設により異なりますので確認が必要です。
―今後のビジョンをお聴かせください。
「リビングウイル」(生前の意思表示)を導入する医療機関は日本でも増加しています。
現在会員数は平均年齢78歳で、11万人。まだ国民全体の0.1%程度でしかありません。
アメリカやオランダでは安楽死・尊厳死が法定化しており「リビングウィル」を宣言している人は、アメリカ25~40%、ドイツ12%と言われています。
今後も「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」でまとめた尊厳死に関する法律の法制化を積極的に推進し、患者や医師を守る仕組み作りに取り組みます。60歳の還暦を迎えたら、「リビングウィル」を書いて家族に伝えることを一般化して、終末期でも家族みんなで安心して寄り添うことが出来るように、引き続き普及に努めて参ります。
団体概要
日本尊厳死協会
HP:
http://www.songenshi-kyokai.com/index.html
イベント案内:
http://www.songenshi-kyokai.com/messages/event/
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
画像提供:日本尊厳死協会
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