「平成28年版高齢社会白書」の統計によると、「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいか」について「自宅」が54.6%で最も多く、次いで「病院などの医療施設」が27.7%となっています。
今回は、映画「いきたひ ~家族で看取る~」監督の長谷川ひろ子さんにお話を伺いました。
長谷川さんは、ご自宅で4児の幼いお子さんと共に、ご主人を看取った記録映像を含む「みとりびと」のドキュメンタリー映画を製作されました。
この映画は2015年4月以来、2年間で180回以上もの自主上映・講演会が催され、全国に
上映の輪が広がっています。
「生還への軌跡」と信じて撮影した闘病生活
―映画製作のキッカケを教えてください。
「看取り士」の柴田久美子さんに出会った衝撃がキッカケです。
「看取り士」とは、余命宣告を受けてから納棺まで「抱きしめて送る」旅立つ人を支援する職業です。
この当たり前の行為が、今の日本では忘れられてしまっています。
映画「おくりびと」の納棺士のように「みとりびと」にスポットを当てたい。
「看取り士」という職業をたくさんの方に知ってもらうために、私にしか伝えられない看取りの尊さや、柴田さんの紹介の仕方があるのではないか。
夫を亡くした4児の母が、全く経験がない中で、そう思いました。
主人の生還を信じて撮っていた記録映像を見直して「出血シーンとか、遺体とか、なぜ撮っていたんだろう?これはもしかしたら、この時のために撮っていたのかな。」って。
薬学博士だった主人が余命宣告を受けたのは2009年のことです。
主人が「必ず生還するから記録を撮っておいてね!」と言い、いつか「生還への軌跡」を一緒に振り返る日がくると信じて闘病生活を撮影していました。
今思えば、あの時から映画製作は始まっていたような気がします。
―自宅でご主人を看取られたのですよね。
最後の夜、甲状腺のガンが気道を圧迫してかかりつけの医師から手の施しようがないと告げられました。
病院に連れて行っても、もう助からない。救急車を呼ぶか、呼ばないか。
子どもたちに尋ねて、呼ばないと覚悟を決めました。
人が死に逝くシーンで、あの境地を一緒にいれて良かったと思っています。
私は、救急車の車内や病院で「ご家族は遠慮してください。」と、大切なシーンが引き離されていたかと思うと、ほんとうに怖い。そうでなくて良かった。と思っています。
「みとりびと」と「みとられびと」の天地合同制作
―映画の中で「天地合同制作映画」と表現なさっていますね。
人脈、撮影機材、お金も、時間もない中で、映像だけがありました。
「これは宝だ。」と思って、何度も何度も見直して。
そうしたら次々と、奇跡の連鎖が起こりました。
「カメラ貸すよ!」
「編集作業するよ!」
「夜勤でいない時は私の家を使っていいよ!」
導かれるままに協力者が現れました。
同じものを目指していることが伝わって、皆さんの「何か力になってあげたい!」という思いがどんどん加速して、大きな力の渦になっているように感じています。
脚本の一文一文は主人の遺影の前に正座し、祈りの中で降りてきた言葉を紡いだものです。
映画の音楽も、習ったことのないピアノに指を置いて、どんどん生まれてくる曲をレコーディングしました。
後から映像に重ねると、ピッタリの曲が用意されていました。
出演者の皆さまも、いま考えると初めから用意されていたような方々でした。
お兄さんを亡くした女性は映画の中で、霊柩車内でお兄さんのご遺体を長時間さすった話をしてくれました。
映画を作る前にお父さんを看取って、映画の最中にお兄さんを看取って、映画に出て、映画が出来てからお姉さんを看取って。
「でもね、この映画のおかげで全然悲しくないのよ。」と言ってくれました。
臨終の際に触れることが大事だというので「5時間さすって、ちゃんと受け取った!」と。
「お姉ちゃんが亡くなった時は、お姉ちゃんまで?とも思ったけど、私は悔いなくやれることをやって、最期まで生ききった姉は幸せだったと思います。」
私は「この映画は人を救うんだ。すごいなぁ。」と実感しました。
ご葬儀では皆さんご遺体に触ってて「あぁ。これが本来だなぁ。」と感動しました。
出演者だけでなく、その方々に看取られた方々、主人との、まさに天地合同制作です。
「今やりたいこと」を正直にやれる世界
―この2年間で全国に上映の輪が拡がっていますね。
2年間180か所以上で上映させていただきました。
映画が出来た後から、ものすごい勢いで全国に上映の輪が広がっています。
「何で宣伝もしてないのに、こんなに広がっていくの?」と驚きました。
「ああ。もうこれはお役目なんだ、私。」って思えたことが幸せです。
―上映会での印象的な出来事はありますか?
毎回上映後にお礼を申し上げて顔を上げると、上映前よりお顔が明るくなる方が多くて「あれ?さっきと同じ方たち?」と驚きます。
観終わった方の中には「大切な人の死をやっと受け入れられた」という方もいらっしゃいます。
なかでも印象的だったのは、4歳の時にお母さんが自殺した方のエピソードです。
「記憶はありますか?」と聞いたら、無表情で「私が第一発見者です。」と仰いました。
「どこで?」と聞いたら「こたつの中。」と答えたので、「温かいところで良かったですね。」と言ったら、ビックリされました。
「良かったですね。と初めて言われました。」
「罰が当たるとか、親不孝だとか、生まれ変わることなんか出来ないとか言われ続けていたし、自分を置いていった母を許せなかったし、許せない自分を許せなかったんです。」って。
ずっと苦しかったのでしょうね。
次の日、その方からの前向きなメールが転送されてきて「あぁ。この方はやっと、ご自分の人生を生きられる。」と思ったら、泣けて仕方ありませんでした。
―最後に、今後の活動について、お聴かせください。
不安とか恐怖を抱えながら生きるのはもったいない。
あまりうろたえずに「今やりたいこと、ワクワクすること」を、ちゃんと正直にやれるような世の中に出来れば、病気にはならないかもしれません。
自分に嘘をついていると、それがどこかで、しこりになって、ガンっていう形になったりするのではないでしょうか。
もっと自由であるべきだし、もっと自分を信じてあげてほしい。
そういうのが当たり前の世の中になったら良いなぁと思います。
かなり抽象的ですけど、一人一人が自分のお役目を全うできる、全部生きるで全生になれたらいいですね。
この映画や講演や、音楽を通して、そういうところのスイッチを入れて「いきたひ」です。
まずは私自身が自分に正直に、やりたいことをきちんとやっている姿を示して、それを見て「あんな風に生きていいんだ。」となってくれたら、幸せです。
団体概要
映画「いきたひ ~家族で看取る~」
ホームページ:
http://ikitahi.com/
facebook:
https://www.facebook.com/ikitahi/
映画「いきたひ」プロローグ動画(You Tube):
https://m.youtube.com/watch?v=bjfssod_8iI
参考文献
『平成28年版高齢社会白書』
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/zenbun/28pdf_index.html
執筆者
取材・文:GCストーリー株式会社 阿南
画像提供:映画「いきたひ ~家族で看取る~」
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